渋る正彦をなんとか見送って、私の役目は終わった。


映画館の中に入ってゆくふたりは、まるで本当の恋人みたいだ。


私と正彦じゃ、ああは見えないだろう。



人ごみの中で立っていると、なにかモヤモヤしたものがこみ上げてくる。

それでも私は、泣かない。


悲しいと思うことがあっても、なぜか泣けない。


いつからだろう。


それすら忘れてしまったけれど、涙の流し方を忘れてしまったみたいだ。