あまりにものろのろと歩いていたからか、学校に着いたのは予鈴が鳴る直前だった。
「大塚、今日遅いな」
靴箱で上履きに履き替えていると、騒がしい足音と同時に声をかけられた。傘を差しながら全力で走ってきたのだろう。乱れた息と、少し濡れた制服の今坂くんが笑っている。
「おはよう」
「あれ? 宮崎は?」
「体調悪くて、遅れるみたい」
本当のことだけれど、それがウソだとわたしは知っている。誤魔化して笑っている歪な顔を見られたくなくて、彼に背を向けながら答えた。
わたしはずっと、わかっていた。二度目のこの一五歳で、彼がわたしに好意を抱いてくれていることを、知っていた。知っていたから、告白すれば、彼の言葉を素直に受け止めれば、未来は必ず変わることを知っていたんだ。
ねえ、もしも。
幸登だったら、すべてを知ったうえでなら、彼はどんな行動を起こすのだろう。
今坂くんなら、どうしたいと願うのだろう。
「ねえ、もしも、もしもの話だけれど、今坂くんは友だちと同じ人になったら、どうする?」
チャイムが近づいた靴箱には、わたしと今坂くん以外の生徒は見当たらなかった。靴箱の前にある板に今坂くんが体重を預けると、ぎし、と木がひずむ音が響く。
「えーなにそれ」
「いや、もしもだよ、もしも!」
勘のいい今坂くんに気づかれるだろうか、と今更思いながら「お姉ちゃんがね」と無理のある言い訳を続ける。「ふーん」と首を少し傾けて、あさっての方向をみながら真剣に考えている様子に、幸登の『さあ』という返事を思い出した。
幸登も少しは考えてくれていたけれど、今坂くんほど真剣に想像はしていなかっただろう。
「オレなら、告白するだろうなあ」
「……どうして? もしかすると、友だちと喧嘩するかもしれないよ?」
「まあ、そうかもしれないけど、言わないほうが後悔するだろうから。友達のことはもちろん大事だけど、だからって言わないってことはないかな」
そっか、と答えてから、やっぱりそうだよね、という気持ちと、それでもどうなんだろう、という気持ちがひしめき合う。
「あ、でも、無理なら言わないかも」
なにが無理なのか、と問いかける代わりに今坂くんを見上げた。
「告白したらうまくいく、って確信が持てないと、告らないかな。もちろんそうなるために頑張りはするけど、それでもどうしても無理そうなら、告白したって振られるってことだろ。そうなったら告っても意味ないし、諦める」
今坂くんらしいな、と思った。計画的で、真面目で、いろんなことを前もって考える彼らしい、はっきりした返事だ。