あの日、今坂くんの手には小さな紙袋があった。

 茶色のストライプ柄の紙袋に、リボンのシール。一昨日、一緒にでかけた店でわたしにくれたものと同じものだ。

 今坂くんははじめ、わたしではなくセイちゃんに声をかけていた。

でも、セイちゃんは自分は用事があると断ってわたしを誘うように促した。それは、わたしが今坂くんのことを好きだと、伝えてあったからだ。


 もしかすると、前回の五年前、セイちゃんと今坂くんは一緒にでかけていたのかもしれない。


いや確かにでかけたはずだ。眉間にしわを寄せて、記憶を引っ張りだす。なにかがあったはずだと、かすかな糸を手繰り寄せる。

 セイちゃんが今坂くんに誘われた日。五年前もふたりはどこかに話しに行ったのをわたしは見たんじゃなかっただろうか。それを見て、わたしは嫉妬に駆られたはずだ。

 もっと早くに、思い出していれば。
 もっと早くに、五年前のことをに気づいていれば。
 わたしは今回、もっと違う方法を見つけ出せたかもしれないのに。


 今坂くんとふたりででかけたあの日に、セイちゃんは今回と同じように聞かされたのかもしれない。


――『ちなにプレゼントをしたいからって――』


 セイちゃんはだから、わたしの気持ちを何度も、確かめたんだ。


「ちなー!」

 大声で呼ばれてハッと顔を上げた。どのくらいここに座っていただろうかと時計をみると、八時前。セイちゃんが家に来るだろう時間は、とっくに過ぎている。

「セイちゃん体調悪いからちょっと遅れるんですって。先に学校行きなさいー!」

 ぼんやりしている間に家に電話があったのだろう。

 予想はしていたから、大きなショックは受けなかった。けれど、二回目の今日が、前回と同じ始まりであることに、無力感を抱いた。

 雨の中、傘を広げてぱちぱちと足許を響かせながら歩く。

湿気がまとわりついて体がひどく重く、だるい。一歩脚を踏み出すごとに、わたしがしてきたこと全ての後悔がどすんどすんと肩にのしかかってくる。