『どういうつもりなの!』

 セイちゃんの第一声は、初めて聞く怒鳴り声だった。微かに震える声に、体をびくりと震わせて、縮こまるしか出来なかった。

『好きだったんでしょ? なんで、逃げたの? 嬉しかったでしょ? なのになんで……あたしのためにそんなことしてほしくない!』
『な、んの、こと』

 どうして、なんで、セイちゃんが知ってしまったのだろう。

『本当のことを言えばいいじゃない』

 もう、自分でもなにが本当でなにがウソなのか、わからない。
 お願いだから、泣かないで、セイちゃん。友だちをやめるなんて言わないで。

『ご、めんなさい』
『もう、全部遅いよ、ちな』
『ごめん』

 ごめん、ごめんね、ごめんなさい。

 繰り返しているうちに、なにに対して謝っているのかわからなくなった。

そんなわたしに気づいたのだろうか。セイちゃんはとても、傷ついた顔で何度も『もういい』とあきらめを含んだ声色で、するするとわたしを掴む手の力を抜いていく。



 するり、と離れたお互いの手は、それから一度も触れることなく五年が経った。なんども繋いだりからませたわたしたちの手は、もう、二度と重なることはない。

 音も立てずに踵を返し、わたしから去っていくセイちゃんは一度も振り返らなかった。


 ひとりで歩いた三月の、淋しげな桜道。

 これから咲こうとしている小さな蕾も吹き飛ばしてしまうんじゃないかと思うくらいの風が吹きすさぶ。手には黒い賞状筒。今日で中学を卒業して少しおとなになった証と引き換えに、たくさんのものを失った。

 唇に血がにじむほど歯を強く立てて、もしも、もしもを繰り返し思った。