どうしてセイちゃんは、あの日、突然あんなことを言い出したのだろう。

今坂くんが好きだ、とわたしに言った日に、わたしが好きかもしれないと思っていたなら、その場で言いそうなのに、どうしてなにも言わなかったのだろう。

 もしかして、という予感が浮かぶ。

 もしかして、セイちゃんは、次の日にわたしに起こるだろうことを、知っていたのだろうか。

 卒業式当日の、晴れた空の下。式が終わった直後の体育館裏。

 別れというものを実感し、おまけに前日に絶交されたセイちゃんのことで沈んでいたわたしにを、今坂くんが呼び出した。

『あの、さ』

 手元には小さな紙袋。

『あの、オレ、実は』

 その瞬間にわたしが思ったのは『ダメ』だった。

 喜びがなかったわけじゃない。必死に隠し抑えながらも心を奪われていた相手だ。

嬉しかったし、もしかしてという期待だってした。けれど、それ以上に罪悪感がわたしを蝕んだ。じくじくと、削られていくような心臓の痛みで、頭の中がパニックになった。

『オレ、大塚が』
『――や、やめて!』

 苦しかったんだ。一五歳のわたしにはもう、許容オーバーだった。いろんなことが一度に起こりすぎて、心も頭も整理ができなかった。

 今坂くんがわたしのことを。それに嬉しいと思うよりも、どうして今なのかと、責めるような気持ちさえあった。

 歯を食いしばって、頭を左右に振り乱し、涙を堪えるのがやっとだった。

目の前の戸惑った表情の今坂くんに、なにも伝えることができなかった。声を発してしまうと、泣いてしまうだろうから。泣いてしまえば理由を聞かれるから。聞かれた時にわたしは、なにを口走るのかわからなかったから。

 じりじりと後ずさり、そのまま逃げ出すように、彼を置いて教室に戻った。

 担任が教室にやってきて、みんなに卒業証書を配る間、となりの席の今坂くんと視線が合わないようにずっと俯いて、終われば話しかけられる前に学校から出ていこうと思った。

中学生最後の日、友だちとたくさんの写真を撮ったり話したりすることよりも、わたしには大事なことだった。

 お願いだから、セイちゃんにばれないでと。



 ただ、その願いは靴箱に辿り着く前にあっさりと打ち砕かれた。

掴まれた腕に、セイちゃんの爪がぎりぎりと食い込んでくる痛みを覚えている。皮膚から胸、全てが裂けてしまうんじゃないかと思った。