紗耶香の話によると、Facebookで同窓会のイベント招待が届いたらしかった。それがどういうものなのかわたしにはよくわからなかったけれど。同級生がみんな集まるのかと思えば、三年五組だけを誘っているらしい。
それを聞いて、言葉に詰まる。とっさに「行かない」と言って逃げてしまいたくなる。それを紗耶香は察しているからこそ、こうして電話をかけてきてくれたのだろう。
「紗耶香は、行くんでしょ?」
『そのつもり。ちな、成人式も来れなかったし会いたいんだけどー』
「あーそういえばそうだったね。インフルエンザすっごい辛かったの思い出した」
『あはは、だからさ、ちなも行こうよ。もうあれから五年も経ってるし、さ』
五年〝も〟なのか、五年〝しか〟なのかは、わからない。
どっちにしても直接誘いを受けたわけではないので、いまいち乗り気になれない。かといってせっかくわざわざ連絡をくれた紗耶香の誘いを断るのもどうかと思い「予定確認してまた返事する」と無難な答えを返した。
『あ、SNSやってない子もいるから、一応はがきかなんかも送るって言ってたし、それ見てからでもいいからさ』
「そうなの? 今日実家帰るから見てみる」
今時わざわざはがきを送ってくるなんて思った以上にやる気を感じる。幹事が誰かはわからないが、きっとクラス全員に声をかけるつもりなんだろう。
『え? ちな帰ってくるの? えー今日暇なんだけど会わない?』
突然声のトーンが高くなり、ボリュームも上がった。
鼓膜が痛むほどの紗耶香のテンションに思わずスマホを耳から遠ざける。そういえば紗耶香はまだ実家暮らしだった。三月の冬休み、暇を持て余しているのだろう。
会話の流れでトントン拍子に今日飲みに行くことが決まる。いきなりの誘いだったけれど、久々に地元で紗耶香と会うのは楽しみだ。
「飲みに行くのか?」
「あ、ごめん、起こしたよね。うん、なんか成り行きで」
いいよ、と欠伸が混ざったよくわからない返事をして瞼をこすりながらわたしの隣にどさりと落ちるように座る。「コーヒー淹れる?」と問いかけると「ん」と短く答えた。
「同窓会?」
「ああ、聞いてた? なんか中学の同窓会があるんだって。月末くらいじゃないかな」
へえ、と興味があるのかないのかよくわからない返事を聞いて、ドリップコーヒーメーカーの電源を入れた。買っておいたコーヒー豆の入った瓶を取り出して、二人分用意する。
中学生の頃は、わたしがコーヒーを飲むようになるなんて想像もできなかった。いつもミルクたっぷりの紅茶やいちごオレを飲んでいたっけ。いつから飲めるようになったんだろう。
「なにその顔。行きたくねえの?」
抽出が終わるのをぼんやりと待っていると、彼の声が聞こえた。「え?」と振り返ると、わたしを見つめる視線とぶつかった。