「ねえ、セイちゃん」
「んー?」


 目を大きく開けて、首を傾げる。勇気を出せよ、とでも言いたげに犬がぽふ、と肉球をわたしの膝に乗せた。

「セイちゃんの、ほんとの気持ちを、聞きに来たの」
「な、にそれ。なにいってんの? いっつも話してるじゃん」

 からからと笑うセイちゃんは、わたしの目を見ようとしなかった。

「今坂くんのこと、好きだよね?」
「――好きじゃないってば」

 ふっと、顔から笑みが消える。口許がかすかに震えているのがわかった。なにかを、言うとしているのか、口から溢れそうになるものを堪えているのかは、わからない。

「どうして……今坂くんの誘いを、断ったの」

 一緒に出かけるチャンスだったのに。わたしに気を使ったの?

でも、わたしセイちゃんにそんなことをして欲しくて、今坂くんが好きなことを伝えたわけじゃない。お互い好きだけど、だからこそ、ふたりともがんばろうって、そう思いたかったんだ。

そんなふうに、過ごしたかったんだよ。

 それが出来ると思った。

 だってセイちゃんは、五年前も全部、知っていたから。知っていて、勇気を出したから。

「どうしてって? あたしはちながなんでそんなことを言うかのほうがわからない」

 自嘲気味に笑ったセイちゃんは、虚ろな瞳をわたしに向けた。

「なんで黙ってちゃいけないの? そうしたいと思ったから、そうしてるのに、なんで無理やりこじ開けるの?」

 静かな、だけど怒りのこもった声に、足許にいた犬がピクリと体を震わせて顔を上げる。わたしとセイちゃんを交互に見てから、逃げるようにそそくさと部屋を出て行った。

 ふたりきりになった部屋の中は、暖房が効きすぎていて、少し暑い。じわりと体に汗が浮かんでくる。

「そうだよ! 好きだよ! 今坂が好きだよ!」
「だったら、どうして」
「どうして? 今坂がちなのことを好きだからでしょ?」

 そんなことは――と嘘でも言うことが出来なかった。

 セイちゃんは歯を食いしばって、瞳を涙でいっぱいしにして、それでも零れないようにまばたきをしないで震えている。まるで、五年前のように。