「どうかした?」
「ううん、なんでもない」
あまりに違うからかな。幸登のことをふと思い出してしまう。
せっかく、今坂くんと出かけているのに、と頭から幸登を追い出して、目の前にいる初恋の今坂くんに意識を集中させた。
ただ、不思議な事にあんなに緊張していた今日のデートは、嬉しい、よりも微笑ましい気持ちばかりを抱く。
慣れないお店で、堂々と振る舞おうとする姿や、こっそりと戸惑い焦る表情。精一杯、デートをしようとしてくれる今坂くんは、わたしにとって十五歳の男の子だった。
そして、わたしは二十歳の、大学生だった。
しばらくしてやってきたランチは、素朴だけれどとても美味しかった。
女の子が好みそうなおしゃれなプレートに、こぢんまりとしたオムライス。ケチャップライスかと思ったらバターライスで、今度自分でも作ってみようと思った。突然実家でご飯をつくりだしたら、母はひどく驚きそうだ。
今のわたしではおそらく想像できないだろうけれど、高校に入ってからわたしもそれなりにお菓子を作るようになった。
女子校だったからバレンタインやホワイトデーは毎年お菓子パーティになる。みんな女子力をここぞとばかりにお披露目するから、チョコレートも焼き菓子も、まるで店舗で買ったんじゃないかと思うほどかわいくデコレーションされている。
そういった流れにわたしも乗って、実家で料理教室を営んでいる友だちのに教えてもらいながら作るようになった。
きっちり測ればほとんど失敗のないお菓子作りは、わたしの趣味のひとつでもある。
そこから食べ歩きも趣味になり、有名なケーキや和菓子、カフェをよく回った。大学でケーキ屋のバイトを始めたのも、余ったケーキが食べられるだろうという安易な理由だ。料理もし始めたけれど、こちらは普通の腕前だ。