差し出されたメニューも「はい」とわたしに先に見せてくれる。中学生にしては千円というランチは少しお高い気もするけれど、デートではこのくらいなのだろうか。

 どれも美味しそうで悩んでしまう。

今坂くんに問いかけると、真剣に悩んでくれて余計に決まらなくなった。

こっちもいいね、こっちはこれがついているよ、これも気になる。

そんな会話を数分続けてから、これ以上悩んでいたら決まらないと諦めて一番最初に気になったオムライスセットを、なに今坂くんはパスタセットを選んだ。


「すごいね……ちゃんと調べてくれたなんて」
「そんなことないよ。オレ、行き当たりばったりとか心配症だからできないんだ」

 感心するわたしの視線から逃げるように俯いて、今坂くんが水をごくりと飲み干した。テーブルに戻すと残った氷がからころと音を立てる。

 スマートだ、と思うけれどやっぱり中学生の男の子で、恥ずかしそうに、居心地が悪そうにそわそわとしている。

つい「ふふ」と笑ってしまうと「なんだよ」と唇を尖らせた。

 調べてくれたとは言え、こんな店に来るなんて初めてのことなのだろう。男子だけでは入らないだろうし。ほんのりと色づく耳元が、かわいい。

 そういえば幸登はこういう店は嫌いだったな、と思い出す。

 彼は今坂くんとは真逆で、かっちりと決めて行動するのが苦手だった。

映画を見に行く時も時間を調べないし、ご飯はいつも適当に、その時見つけたお店の中から選ぶ。主にラーメンか中華だった。

たまにはおしゃれなお店に行きたいと言っても、落ち着かないからとなかなか首を縦に振らない。

初めて入ったお店の料理が美味しい時は『どうだ』とまるで知っていたかのように自慢気に親指を立てて、驚くほどまずい時は店を出たあとに『不味かったなーすげえ』とケラケラと笑った。

 成り行きに任せる方が楽しい、というのが口癖だった。

毎回その行き当たりばったりに付き合うのは大変なことも多かったけれど、悔しいことに確かに楽しいこともあったし、新しい穴場のお店を見つけたりと得るものもあった。