「ご、ごめん! 待った?」
「大丈夫、オレが時間守らないと落ち着かないから早く着すぎただけ。あ、はい」

 わたしの姿に気づいた彼は立ち上がって、頭を下げるわたしに缶ジュースを差し出してきた。

受け取るとそれは、じわりと手先を温めてくれる。先に来てわたしの分を買っておいてくれたなんて、そんな紳士な対応を十五歳で出来るなんて。

 いつも着ているコートに、カーキのカーゴパンツ。足許はバッシュみたいにゴツゴツしたスニーカー。特別な服装ではないのに、背が高いのもあってとても自然に着こなしていておしゃれに見えた。

 鼻の頭が少し赤くなっている。随分前からここで待っていたのかもしれない。

「あ、ありがとう」

 お礼に彼は微笑むだけ。きっと彼は将来彼女のカバンを持ったり、店のドアを開けて女の子を先に通りたりするんだろう。

自分がとてもか弱い女の子になったみたいで、どんな反応をすればいいのかわからず、ただ照れることしかできなかった。

 改札を通って奈良方面行のホームに行くとすぐに電車がやってきた。

「お昼食べた?」
「い、いや、まだ」
「じゃあ、先にご飯食べようか。近くになんかかわいいカフェがあるんだって」
「へえ……行ってみたい」

 ここ数年、西大寺なんてほとんど行っていないから、そんな店があるなんて知らなかった。

駅前のビルに何度か飲みに行ったくらいで、ならファミリーですら行っていない。そういえば紗耶香が美味しいチーズケーキの店もあると以前言っていた。わたしは未だ行ったことはない。

 二駅目の大和西大寺駅で降りて、「こっち」と案内してくれる今坂くんのあとをついていった。

五分ほどでたどり着いたのは、とてもかわいらしい一軒家のようなカフェだった。野菜にこだわっているらしいことが、入り口の黒板に書かれてある。

こんなおしゃれな、大阪の南船場か北堀江にありそうなカフェが奈良にもあったなんて知らなかった。一体いつからあったのだろう。

 からんころん、と鳴るドアを開けると、奥がガラス張りになっていて太陽の光が店全体に差し込んでとても明るかった。

 明るい木のテーブルと椅子が並べられていて、ほとんどの席が埋まっている。満員じゃないのかな、と思うと「ご予約様ですね」と一番奥に案内された。

 あまりにもスマートすぎる今坂くんの行動に、中身は年上のはずのわたしが戸惑ってしまう。

前もってこんな店を調べてくれていたなんて。この世にそんなことが出来る人が本当にいたなんて知らなかった。ドラマやマンガの中だけかと思っていた。