ゆらゆらとバスの振動に合わせて体が揺れる。動いたと思ったら止まり、調子よく進んでいるなと思ったらバス停に着く。

スマホの持っていないわたしは手持ち無沙汰で、ぼーっと窓の外を眺めて過ごした。

狭くカーブの多い道を、大きなバスは器用に突き進んでいく。映り込んだわたしの姿の先に、真っ青な空が浮かんでた。

寒いけれど日が当たると心地いいくらい太陽が頭上で輝いている。

 さっきまで一分一秒を争っていたにもかかわらず、とても穏やかでのんびりとした気持ちになるのは、バスが心地よい振動を与えるからだろう。

 
 幸登と付き合ってすぐの頃、それなりにデートはした。

けれど、恋愛感情を抱く前の友だち関係の頃から出かけたことがあったから、今ほど胸を弾ませたり、緊張したり、ということはなかった。

付き合っても友だちの延長みたいな関係だったのかもしれない。

 幸登は遅刻常習犯だった。

待ち合わせ場所についてから電話をしたら、今起きたところ、と言われたことも何度かあった。

最初のうちこそ怒ったりすねたりしたけれど、次第にそれを見越して家をでる前に電話したり、わたしも遅れて行くようになった。あとは時間を潰せる場所を予め考えて待ち合わせ場所を考えたりもしていたっけ。

 一緒に暮らしてから、友だちとの待ち合わせにふたりで遅れたこともあった。

元々わたしも朝には強くないのだ。慌てて起きて用意をしていると、「今更仕方ねーなあ」とひとりのんびりタバコを吸って、たまにシャワーを浴びたりする幸登に何度イライラさせられただろう。

『今更急いだって遅刻には変わりねえんだから、着いたら一緒に謝ろうぜ』

 思い出すと、つい笑みがこぼれてしまった。

 急いだところで遅刻、という意見は正しいけれど、謝るのは当たり前だ。少しでも早く着くように急ぐべきだろうに。

なんで彼はいつも落ち着いていたのだろう。しかも幸登の場合、なぜかそれが許されてしまう人だった。それがあの性格を作り上げたのだろうか。


 バスは予定よりも遅れて、駅に着いたのは待ち合わせの五分前。

一本早いバスに間に合ったおかげでなんとか遅刻せずに済んだことにほっとする。ただ、駅のベンチにはすでに今坂くんの姿があった。