その夜、セイちゃんの家に電話をした。
姉の部屋にある子機を手にして、番号を押す。不思議なことに電話番号を思い出すよりも前に手が動いた。何度もかけた番号を、体が覚えている。
『はい、宮崎です』
「こんばんは、千夏です。セイちゃんいますか?」
『千夏ちゃんこんばんは! 聖子ね、ちょっと待ってねー』
おばさんの明るい声が受話器越しに響く。
セイちゃんにそっくりな目元で、お話好きなおばさんだ。わたしがまだ実家にいるとき、何度か道端で会ったとこがある。『元気?』『また遊びに来てね』といつも声をかけてくれた。
本気で寂しがっているような口調は、わたしとセイちゃんがもう連絡を取り合っていないことを知らない様子だった。
いつだったか『聖子に聞いても元気だよーしか言わないんだの』と言っていた。
もちろん、わたしだって母にそんなことは言わなかったし、セイちゃんのことを聞かれても適当に答えていたけれど。
『はあい、ちな?』
「受験お疲れ様、どうだった?」
『バッチリ! といいたいところだけど、英語が難しくってさあ』
そこからテスト問題の話になった。あんな問題インチキだ、性格が悪い、と文句を言っていたけれど、国語と社会については自信があるらしい。
セイちゃんの口調を聞いていればそこそこできたのだろう。
『で、どうしたの?』一通り話すと、そういえば、と口にする。
「日曜日、遊びに行ってもいいかなーって」
『ああ、もちろん! もう勉強から開放されたしね! どっか行く? 久々に家でのんびりするー?』
セイちゃんの誘いに、外に出るのもいいかな、と思ったけれど明日は今坂くんと出かけるし、お小遣いもない。それに、外では話しにくい内容になるかもしれない。
「家、行ってもいい?」
『いいよーのんびりしよっかー』
きゃははは、といつも通りの明るい笑い声が響く。そして『明日でもいいけど』とセイちゃんが言った。
喉にかが引っかかったように言葉に詰まる。