簡単なショートホームルームを終えると、紗耶香がすかさず「帰ろー」とカバンを背負ってやってくる。

さっきまで落ち着かない様子だったけれど、言いたいことを言った後だからか、やけにスッキリした表情で軽やかな口調だった。

「じゃあ、明日。遅れんなよ」
「あ、う、うん! バイバイ! い、今坂くんもね」
「オレは、約束は絶対守るよ」

 ぼそっと耳打ちするように聞こえてきた隣からの声に、大きな声で返事をしてしまった。

彼はそんなわたしの反応を楽しむかのように笑って軽く手を上げて教室を出て行く。

 ついぼーっと、夢でも見ているんじゃないかと背中が見えなくなるまで見つめていると「ちょっとお」と声だけで顔が分かるような、甘ったるい紗耶香の声に体がびくついた。

「どういうことー? なに、明日って」
「や、あ、あははは」

 誤魔化して笑って見せても、紗耶香には通用しない。

途中までの帰り道に洗いざらい吐かされてしまった。恥ずかしくて仕方がない。自分の恋話を人に伝えるというのはこんなに羞恥を覚えるものだっただろうか。

「なにもーひとりだけ上手くいっちゃって!」
「紗耶香もじゃない」
「えー私はわかんないよー。関谷モテるしさあ。まあ、言いたいことは言ったし、あとはどうにでもなれーって感じ」

 あははは、とカラ元気なほどの笑い声を上げて、空を見上げた。

 紗耶香に釣られるようにわたしも顔を上げる。まだ夕暮れには早い、青い空が広がっていて、薄い膜のような雲が全体にかかっている。ふわりと舞うような風が、わたしのマフラーを解く。

「セイちゃんには、言いなね」
「……うん」
「セイちゃんは、隠される方が嫌がると思うし、そんなことで、ちなのこと嫌いになったりしないよ」
「うん」

 マフラーをくるりと首に巻いて、地面を見つめながら頷いた。

丁度トンネルに差し掛かって、光を遮る。暗くて冷たいそこでは、小さな返事が微かに響く。わたしと紗耶香はお互いの顔を見なかった。表情を見てしまうと、言葉を失ってしまいそうだった。