本当に楽しかった。がんばれーとか、そこチャンスだよ!とか。こんな風に大声で叫んで笑って必死になるなんて、久しぶりだ。寒さなんかもうとっくに忘れてしまった。
いつから、わたしはこんなに冷めてしまったんだろう。
みんなで一体になって、たった一〇〇円のジュースと、三〇円のお菓子のために夢中になって、疲れたけれど充実感のあるこの感覚を、どうして忘れていたんだろう。こんなに、気持ちがいいのに。
なくなったのか、見失ったのか、それともやめたのか。
「あ、ちな! 先教室戻ってて!」
紗耶香がわたしの返事を聞かずに駆け出していった。
前には、友達と歩いている関谷くんの姿があった。青色のジャージを腰に巻いて、みんな同じ格好をしているのにおしゃれに見えた。
こういう雰囲気がモテるのだろう。
「紗耶香!」
慌てて呼びかけると「ん?」と足を止めて振り返る。
「もしも、もしもだけれど……うまくいっても、傷ついたり泣いたりすることがあったら、もしそうなるとしたら、それでも、言うの?」
引き止めるのが正しいかどうかは、五年後、笑っている紗耶香を見ているとわたしにはわからなかった。でも、高校時代のように彼のことでくるんでいる姿を思い出すと告白をしてほしくないと思う。後悔を、してほしくない。
「なにー? 大丈夫だよー! でもありがと!」
紗耶香はわたしの言った意味を、理解していないだろう。眩しいほどの笑顔を向けてから再び走り出していく。
今、一五歳の紗耶香が前向きに決意したことに対して、どう行動すればいいのかわからない。なにが正解なのか、未来を知っていてもわからない。ただ、心のなかで「今度はうまくいきませんように」と思った。
もっと必死で止めればよかった、といつかのわたしは、また、悔やむのだろうか。
ひとりで教室まで歩いていると、肩をこつんと突かれた。振り返ると、汗なのか水なのか、顔を濡らした今坂くんが息を切らせて立っている。