「じゃあ、今日はそのまま塾行くからバス乗って駅まで行くねー」
今日も四人で帰り、真美とセイちゃんは途中のバス停に向かって歩いて行った。明日公立高校の受験本番だから、一旦家に変える時間ももったいないのだろう。最後の追い込みだ。
「あ、ちな」途中でふと脚を止めたセイちゃんが、振り返った。
「きっと明日はいいことあるよ!」
意味がわからなくて首をかしげる。明日、なにかあったっけ?
理解していないわたしを見て、にやりと笑うセイちゃんは、ほんの少し、なんとなく、気のせいかもしれないけれど、悲しそうに見えた。
吹き付ける風が、セイちゃんのお団子を乱してしまう。
「明日、頑張って、ね!」
ふたりの背中に叫ぶと「もちろん」と明るく自信のある返事がかえってきた。
今坂くんのことを、どう思っているかを、わたしはセイちゃんにちゃんと確かめたい。
本当のことを話してもらいたい。
五年前は、わたしに打ち明けてくれたのだから、今回も正直な気持ちを教えてもらいたい。どうして、今日、なにも言ってくれなかったのかも。
抜け駆けしたいわけじゃないし、早い者勝ちをしたいわけじゃないんだ。そのためにわたしは朝、セイちゃんに言ったわけじゃない。
本来ならば、紗耶香が告白の決心をしてから、学校が終わってからセイちゃんはわたしに言った。
『あたしも、告白しようかな』と、ふたりきりになったときに耳打ちしてくれた。
今日もそのタイミングで聞いてしまったあと、別れる直前に『わたしも』と伝えられないと思っただけ。
明日はセイちゃんの大事な日だ。
気になることはたくさんあるけれど、今は受験を応援しよう。
大丈夫だとわかっているけれど、なにがあるかはわからない。わたしの行動によって、未来を変えるってことは、確かなものはなにもないっていうことだ。
明日の夜か、明後日の土曜日に会いに行こう。
「大丈夫かなあー」
紗耶香の心配そうなつぶやきに「大丈夫だよ、きっと」と自分に言い聞かせるように答えた。