ぎゅっと目をつむってセイちゃんの反応を待っていると、突然「ぷ」と吹き出すような声が聞こえた。と、同時にバシンと力いっぱい肩を叩かれた。
「ちょ、なに泣いてんのー! 泣くようなことじゃないでしょー! あはははは、ちながそんな風に感情高ぶらせるなんて、もう、かわいいんだからー!」
静かな住宅街に、セイちゃんの笑い声が響き渡る。目を見開いて顔を上げると、ケラケラと笑い転げるような姿があった。
「で、でも」
セイちゃんも、今坂くんのことが――。
「ちなが今坂のこと好きなことなんて知ってるし。ちな嘘が下手くそなんだもんー話しているとき目がハートになってるんだから」
「そ、そんなことは……」
「まあまあ、言ってくれて嬉しいよーいつ言ってくれるのかと思ってたし。それにほら、今坂もまんざらじゃないと思うんだよねえ。いけるって! 告白しちゃいなよ」
「セイ、ちゃん?」
「でも、もしかすると今坂の方からちなに、ってことも」
「セイちゃん!」
早口でまくし立てるように喋り続けるセイちゃんに、口を挟んだ。「なにー」と楽しそうに微笑んでいる彼女に、言葉が詰まる。
だって、そうじゃない。
だってセイちゃんも、今坂くんのことが、好きでしょう。なんで、わたしを応援しているの。なんで、なにも言わないの? 五年前は言ったじゃない、今坂くんのことを二年から好きだったって、そう、言っていたのに。
想像とは全く違ったセイちゃんの反応に、頭がくらりと揺れる。
「セイ、ちゃんは?」
「え? あたし? なにもないよー。高校生活に期待するしかないよねえ。っていうか明日の受験でまず受かるのかっていう」
「ち、ちが……セイちゃん、も。今坂くんを……」
恐る恐る問いかけると、セイちゃんは目をまんまるにしてから、また「ぷはは」と吹き出した。
「なに、ちなも誤解してるのー? 違うって言ってるのに。今坂はただ気が合う話しやすい男子ってだけ。好きとかないから! だからそんな泣きそうな顔してんのー? もう、気にしすぎ!」
どれだけ明るい声で、どれだけ笑って見せても、わたしにはそれが嘘だということはわかる。
以前のわたしだったら信じたかもしれない。でも、今のわたしは過去を知っているんだ。
「あたしが好きだったらちゃんと言うに決まってるじゃん!」
くらくらと視界が揺れる。誠ちゃんから発せられる言葉に、視界が白く染まっていく。
どうして、言ってくれないの?
だって、五年前セイちゃんは、言わないわたしに怒ったじゃない。
セイちゃんが頑なに認める様子はなく、黙りこむわたしに気づいているのかいないのか、ただひたすらひとりでテンション高めに話し続けた。話の殆どは、わたしの耳には全く入ってこなかった。