六時間目を終えて、わたしたちはすぐに教室をあとにした。
セイちゃんと真美はすぐに塾に行くらしい。駅前にある大きな塾に通っていて、入試前の今は本当に厳しそうだった。わたしは隣の、普通しか止まらない駅の近くの個人塾に通っていた。
校門を出ると真美だけが反対方向に帰って行って、紗耶香ともトンネルをくぐった先で別れた。
「もうすぐ、離れるんだよねえ……」
「あと、一週間だねー」
それは、わたしにとって〝卒業まで〟というよりも〝セイちゃんと離れるまで〟という意味だ。
一週間後、今歩いているこの道を、わたしはまたひとりで帰ることになるのかもしれない。夢であれば全く違う未来がわたしたちを待っているかもれないけれど。
セイちゃんは寒さに耐えるように小さく縮こまって隣を歩いている。
空はとてもきれいで空気も澄んでいるけれど、その分寒さも厳しい。はあ、と息を吐き出すと真っ白に染まって、消えた。
「高校離れても、一緒に遊ぼうね、ちな!」
するりと、自然と、わたしの手に腕を回して「ね」と念を入れるように言ってわたしの目を見つめる。
絡まる、セイちゃんの細い腕。何度も繋いだ手。セイちゃんの手はいつも少し冷たかった。でも、いつも本当に優しくて温かい。
わたしは、そんなセイちゃんと一緒に入られることが本当に大好きだった。
この手をわたしは裏切った。
「うん、もちろん」
できれば、そうならない一週間が過ごせればいいと、思う。あんなのはただの悪夢だったと、そう笑っていつしか忘れられるものだといい。
けれど、たとえそうであっても、いつしか連絡が減っていくものなのかもしれない。
わたしの記憶に残る二十歳までの日々には、紗耶香と真美と遊ぶことは何度かあった。
はじめのうちは頻繁に連絡を取り合っていた。高校に入ってみんなスマホやガラケーを持ち始めたから中学時代よりもやり取りはしやすくなった。
けれど、それも数ヶ月の間だけだった。
いつのまにか一週間、二週間、一ヶ月半年と連絡が開くことが当たり前になり、顔を合わすのは年に一度あればいいほうだ。だけど、それは関係が薄くなったとか、友だちじゃなくなったとかじゃなくて、変わっていく環境の中でどうしようもないことなんだろうと思う。
中学校だけだった世界が、高校やバイト、大学と出会っていく人が増えて広がっていくんだ。それだけのこと。
〝ずっと一緒に遊ぼうね〟という今は本気の約束も、数カ月後には霞んでいく。
それは、どんな未来が待っていようと、変えられない事実なのだろうか。