授業は公立高校入試のための復習授業だったり、自習だったり。テストのための小テストもやらされて、わたしは全く出来なかった。
数式を覚えている数学と、英語と国語はまだしも、理科と社会なんて記憶に全くない。
隣の席と解答用紙を交換して答え合わせをした時、今坂くんに「忘れすぎだろ」と笑われて本当に恥ずかしかった。そういう今坂くんも二月に私立の男子校に進学が決まっていたので自慢できるほどの点数ではなかったけれど。
「ほんと、休みにしてほしーよねえ」
お昼休み、お弁当を食べ終わって教室の隅っこの電気ヒーターの近くに手を掲げながらセイちゃんが呟いた。それに同意するのは真美。ふたりとも公立高校志望だ。
卒業まで一週間。わたしを含めた私立に進学が決まっている子は勉強から開放されているけれど、公立進学希望の子はまだ入試を控えた状態だ。
ほかにも何人かの生徒は単語帳や小さなノートを手にしている。確か来週に本番だったはず。合格発表も卒業式の数日後だったっけ。
「いいなあーちなと紗耶香はもう受験終わってるんだもんなあー。しかも一緒の学校とか羨ましい」
「もうちょっとじゃん、頑張れー」
「明後日とか信じられない! あーもう緊張するー」
受かるから大丈夫だよ、なんてことはもちろん言えないので、紗耶香と同じようにふたりを応援した。
まだ三人のテンションについていけないことはあるけれど、これだけ一緒に過ごしていると少しずつ感覚が戻ってくるのが分かる。
流行りの話は思い出せないけれど、学校のことや先生の文句では、ケラケラと当時のように笑う。
紗耶香と久々に飲んで話しているうちに思い出話に花が咲いて些細な事が楽しくて仕方なくなった、そんな感じだ。
こうして笑っていると、やっぱり二十歳の自分は全部夢だったのかな、と思えてくる。
「ちょっとつめてー」
「ちょっと! 押さないでよ今坂ってば!」
「寒いんだからオレらにも当たらせてくれよー」
ぐいぐいとわたしとセイちゃんの間に割り込んできた今坂くんと他の男の子たちが、電気ヒーターの一番暖かい場所を陣取ってしまった。
「大塚、元気になったっぽいな」と今坂くんが言う。
「え? ちな体調悪かったの?」セイちゃんが今坂くんたちが遮る視界から乗り出して叫んだ。
「大丈夫だよー」
「宮下、耳元で叫ぶなよ、いてえー」
「もー文句ばっかり!」頬を膨らましたセイちゃんは、とてもかわいらしかった。仲のいいふたりのやりとりに、胸がジクジクと、膿んでいるみたいに痛む。