ホームルームが終わればすぐに一時間目が始まる。
先生がやってくるまでぼんやりと思い浮かんだ可能性を考えていた。
となりの今坂くんが「さみー」と何度も呟いてカイロを両手で包んでいる。わたしも持ってくればよかったなあと手をこすり合わせてからポケットに突っ込む。
暖房器具は、教室の一番後ろにある電気ヒーターのみ。窓際は外からの冷気を感じてちっとも暖かくない。
こんな寒い部屋でスカート一枚なんて、風邪を引けといわれているみたいだ。
「大塚、やるよ」
「え?」
横から突然降ってきたなにかを、慌ててキャッチすると両手に温もりが広がった。今坂くんがさっき手にしていたカイロ、じゃないだろうか。
「オレ、もういっこあるから。体調悪そうだし」
「あ、ありが、とう」
ポケットから袋に入ったままのカイロを取り出して封を開けた。二個目を持っていたとは知らなかったけれど、すぐに中身を出したのは、わたしが断らないようにだろう。
そんな優しさが、心に染みてきて体の芯まで温かくなった気がした。
顔が、熱い。さっきまで寒かったのに、火照る。
こんな些細なことで、嬉しくて赤面してしまうなんて。カイロを口元に持ってきて、顔を隠すようにはあ、と息を吐き出した。
恥ずかしいのと、幸せなのと、そんなふうに素直に反応する自分に戸惑いを隠せない。
こんな気持を抱くなんて、もうずっと、なかった。
ちらりと、気づかれないように今坂くんを一瞥する。
わたしの記憶に残っている、そのままの彼が、今わたしの隣りにいる。成長した彼を見たことがないから当然なのだけれど。
二十歳のわたしからすれば幼い姿のはずの彼がそこにいるという信じられない現実に、わたしの中で心地よい心拍音が奏でている。