昔は広い、と思っていた公園は今見るとそんなに大きくはなかった。
そこを過ぎて突き当りを右に曲がると、左手に集合住宅が見えた。その先に短いトンネルがあり、そこからは狭い道に変わる。すでに学校は見えていた。
自転車通学の子たちが通る裏門を通り食いて正門までは、急な坂道になっている。登ったところに門があり、そこには見覚えがあるようなないような、体育教師らしきおじさんがわたしたちを見て「おはよう」と声をかけている。
曖昧な記憶しか残っていないけれど、体が覚えているのだろうか。靴箱の前でわたしは迷うことなく自分の上履きを取り出した。
白い上履きは一年以上履いているから大分黒ずんでいる上に、マジックでカラフルに彩られていた。
自分の名前だけでなく、セイちゃんや紗耶香の名前も書いてある。正体不明のブサイクなキャラクターも。
「……すっごいなあ」
履き替えて足許を見つめながらつぶやく。恥ずかしく思ったけれど、履いてみると余計だ。なんだか落ち着かない。
「なに今更、卒業式近いから感傷に浸ってんのー?」
ケラケラと笑うセイちゃんの上靴は、私よりもカラフルで、白地が見えないくらいだ。
一番大きく書かれているのは名前よりも『セイ&ちな 祝同クラ!』というピンクの文字。
そういえば中学生活最後の年に同じクラスになれたことを抱き合って喜んでいたっけ。わたしの上靴にもよく見れば緑色で『3ー4 ちなつ&せいこ』と書いてあった。
かわいくて、幼くて、毎日が楽しくて仕方なかったわたしたち。
ずっと一緒にいられるんだと信じて疑わなかった。ずるくて弱い自分に、まだ、気づいていなかった。
朝の予鈴がなるのは八時三十五分。わたしたちはのんびりと喋りながら歩いていつも大体八時二十分前後には教室に着く。
靴箱から右手の校舎の一階に三年の教室が並んでいて、手前から一組で、わたしたちの四組は一番奥。廊下で顔を合わせたクラスメイトや友だちに挨拶をかわしながら進んでいく。正直忘れていて思い出せない子もいたけれど、ただ笑って返事をすればよかった。