卒業を一週間後に控えた今日に、わたしはいる。
五年間、何度も思い返した一週間。
あのときこうしていれば、ああしていればと何度も考えた一週間を、わたしはこれから過ごすのだろうか。また、同じ苦しみを味わわなければいけないのか。
思い返すと目の前のわたしの顔が歪んで、泣きそうな顔になった。
昨日まであったわたしの顔じゃないからか、わたしの分身がわたしの思考によって痛々しい表情になってしまったように思える。ごめんね、と慰めてあげたくなる。
今が、本当に五年前だとしても、同じような日々になるとは限らない。二十歳までのことが長い長い夢だったのかもしれない。信じられないけれど、今ここにいるってことを、肌も、鼓膜も、舌も、視界も、全ての細胞が伝えてくる。
持っていたはずのスマホは見当たらない。あの頃、わたしはまだ持っていなかったから。そしてベッドの傍の時計で時間を確認すると、長い針は9の位置にあった。
もうすぐ、チャイムが鳴るはずだ。
瞼をゆっくりと閉じて、深呼吸をする。
――ピンポーン、と予想通りにそれが響いて視界を開いた。
茶色のピーコートを着て机の脇に置いてあったグレーがかった青緑のリュックサックを背負う。準備を済ませて玄関を開けると、門の前にいた彼女がわたしをみて明るい笑顔を向けた。
前髪には星形のモチーフがついたヘアピンがふたつ。ラフな感じにまとめられたお団子。大きくはないけれどくりっとした目元と長い睫毛。
シルバーピンクのダッフルコートに、茶色のチェック柄のマフラーを巻いている。布地のトートバックを肩からかけていて、大きなくまのキャラクターのぬいぐるみが揺れていた。
そう、セイちゃんだ。
わたしの、一番の友だちだった、セイちゃん。
「おっはよー、ちな!」
満面の笑みを向けてわたしに言った。三月の朝、霜も降りているんじゃないかと思うほど寒い空間にそれは、とても温かく映る。
泣きたい、泣いてしまいたい、と、思った。
涙をこらえようとして顔をしかめてしまい、セイちゃんは首を傾げる。
「どうしたの? しんどいの?」
「う、ううん、眩しかっただけ」
そっかー、今日いい天気だもんねーとセイちゃんは歩き始めた。
道の隅っこに生えている雑草には、ほんのりと霜が下りていて、小学生の頃はよくセイちゃんと踏みつけて遊んでいたなと思い出す。