思い出すのはいつも、淋しげな三月の桜道。
左手には冬なのに葉をつけたままの木々と、裸になったような淋しげな木々が入り乱れていて、右手には蕾がつき始めた桜の木があった。
滅多に降らない雪が、季節外れにも関わらずちらちらと舞い、地面に触れるとすぅと消える。幻だったのかと思うほど儚い粉雪。
あの日、わたしはひとりであの道を歩いていた。
もう取り戻せない関係と、行き場のなくなった初恋の結末に涙を流すことしか出来なかった。
失った未来の先にある日々が、モノクロにしか感じられなかった。
あのとき、ああしていれば。
あのとき、こうしていれば。
その思いは五年経った今も、胸に残っている。この五年間に、わたしは何度、手放した選択肢から続く未来を想像しただろう。
幼かった、弱かった、わたし。
大切な友達を傷つけ、恋心を踏みにじった、わたし。
今のわたしは、あの頃よりも少しはおとなになって、少しは強くなった。過去を受け入れ、新たな日々を懸命に過ごして年を重ねた。
そう思っているのに、たまにふと蘇る後悔。
あのとき、ああしていれば。
あのとき、こうしていれば。
――今よりも素敵な未来を過ごせたかもしれない。
・
「……なん、で」
鏡に手を添えて、目の前にいる自分に問いかけた。
なんの手も加えられていない真っ黒の髪の毛、耳が半分隠れる程度のショートカット、ハリのある健康的な肌。昨日塗ったはずのネイビーブルーのマニキュアは爪に一切の痕跡も残っていなかった。オマケに短く切りそろえられている。
鏡に映っている〝わたし〟は、戸惑いを露わにした表情でわたしを見ている。間違いなくわたしだ。けれど、違う。〝今の〟二十歳のわたしじゃない。
「千夏(ちなつ)! なにしてるの、さっさとご飯食べなさい!」
懐かしい母の怒鳴り声が背後から聞こえた。