「あ、そういえば届いてたよ、手紙」
前菜がテーブルの上に並べられて、ふと思い出した。「同窓会の」と補足するときょとんとしていた紗耶香が「ああ、同窓会ね」とこくこくと頷いた。
「今時郵送ってすごいよね。FacebookとかLINEとかでも連絡回してるんでしょ? ホントに届くと思わなかったよ」
「ちな、中見た?」
手紙の中身、つまり同窓会の詳細のことだろう。
今日母から受け取ってそのままどこかに置いたままだ。封を開けてもいないし、封筒ですらよく見ていない。宛名の左側に『三年四組、同窓会のお知らせ』と書いてあったのを確認しただけでぽんっと、そのへんに置いた。
「ううん」と首を左右に振ってから、どこに置いたっけ、と記憶を辿ってみた。こたつの上、ではないはずだ。サイドボードかもしれない。もしくはダイニングテーブル。
「幹事、セイちゃんなの」
頭の中に、春の匂いを含んだ冬の冷たい風が吹く。
――『ちな! 一緒に帰ろー』
ダークブラウンの髪の毛。猫っ毛の癖っ毛で、いつもお団子にして前髪をヘアピンで留めていた。大きくはないけれど、きれいな二重のくりっとした下がり気味の目元。かわいくて、優しくて、温かくて、わたしの自慢の親友だった。
――『もう、ちなと、友だちやめる』
「……そう、なんだ。好きそうだもんね、そういうの」
からん、と隣の席からハイボールの中の氷が溶けて崩れる音がした。
セイちゃんは、そういうみんなでわいわいするのが大好きだった。
うん、セイちゃんらしい。セイちゃんじゃなくちゃ、クラスのみんなに連絡をしたり手紙を送ったりなんてしなかっただろう。
「ちなとセイちゃんがさ、突然ケンカして、話さなくなったのは知ってるけどさ……もう、いいんじゃないかな?」
なにが、なんて意地悪な問いかけはできなかった。
あの頃からわたしたちを見守ってくれていたのを知っている。
高校が離れても会おうねって、遊ぼうねって何度も約束していたのに、わたしとセイちゃんがあんなことになってしまって、約束は、ふわふわとどこかに浮かんで流されて、消えた。
「ま、返事はギリギリまでいけるらしいし、考えてみて。あ、これ美味しい!」
はっきりとした返事をしないわたしに、紗耶香が気を使って明るい声で話題を変えた。ついでに店員を呼んでおかわりを注文する。