「ちーな! 久しぶり!」

 バスから降りるとすぐに、紗耶香は大きな声を出してわたしに手を振りながら駆け寄ってきた。ブーティーをカツカツと鳴らしながら地面を蹴りあげる。

 前に会った時は胸元まであった赤みがかった髪の毛が、栗色のショートカットになっている。以前よりも目が大きくなったようにみえるのは、マツエクだろうか。手元のネイルには冬らしい雪の結晶が描かれていた。

 家に帰ってわたしもネイビーブルーのマニキュアを塗ったけれど、紗耶香の爪と比べると子供のように見えた。


「久しぶり。だいぶ雰囲気変えたんだねー」
「そうなんだけど失敗したー首元寒くってさ」


 一年以上会っていなくても、こうして話せばすぐに中学時代に戻ったように会話が弾む。

 くだらないことでケラケラと笑いながら電車に乗り込んで近鉄奈良駅に向かった。紗耶香が最近気に入っているカフェレストランがあるらしい。

 商店街を通って途中の細い道に入っていく。何度か道を曲がり、いくつかの雑貨屋や古着屋のあるビルの中に進むと、外からは全く想像できないほどの広さの店になった。

 薄暗い店内に、テーブルの上にはキャンドルが灯されている。思ったよりもおしゃれな店だ。こんな店が奈良駅近くにあったなんて。

 この店だけでなく、近鉄奈良駅はわたしの記憶よりも遥かにおしゃれな街になっている。もちろん大阪に比べれば田舎ではあるけれど。


「奈良も変わったねー」
「ちなと私は高校から大阪出たからあんまり奈良で遊ばなかったよね。今は結構地元に残ってる子と遊ぶから最近奈良ばっかりだよー」

 わたしたちの中学から一緒の学校に進学したのはわたしと紗耶香だけだった。私立の女子校で、クラスメイトは大阪や兵庫の子が多かったから、いつも大阪まで出かけていた。

 中学までは出かけるといえば奈良だった。
 アニメイト行ったり、ファーストフードでおしゃべりしたりカラオケに行って声を枯らしたり、ぶらぶらと買い物したり。当時通っていた小さなショッピングセンターがなくなってマンションになったときは少しさみしく思ったものだ。

 そんなわたしたちは今、あのとき遊んだ場所でお酒を飲んでいる。

 大人に、なったんだなあ。たった五年で。中学生から大学生になって、十五歳から二〇歳になった。

 とりあえず生ビール、と世間でよく耳にする台詞を無自覚で吐き出して乾杯をした。正直言うとビールの美味しさはいまいちわからない。けれど、なんとなくビールを一杯目に選んでしまう。