「来週末、映画に出かけてくれる?」
「おう!」
「たまにはゲームしないで話聞いてくれる?」
「お、おう」

 素直に歯切れが悪くなる。

 無理をしているのがわかって、つい吹き出してしまう。そんなわたしをみて、幸登は単純にもあからさまにほっとした顔を見せた。

「それだけのためにここに来たの? メールしてくれればよかったのに」
「それだけってことはねえだろ。ちゃんと顔を見て謝らないとって」
「嬉しいけど、なんで電話もメールもしなかったの?」

 幸登はさっき降りたバス停にわたしと一緒に向かってくれた。本当にそれだけのためにここまで走ってきてくれた。

さっきよりも風が弱まった気がする。となりに、彼がいるからだろうか。

 しばらく返事がないことを疑問に感じて横を見ると、澄ました顔をしている。多分メールや電話、という選択肢が全く浮かばなかったんだろう。

 自分がやらなくちゃ、と思ったら、そればかりで、他のことなんて考えられない。わたしは、そんな幸登を、好きだと思う。そこに込められた思いは、まっすぐに伝わってくるよ。

「わたしも……ごめんね」

 ぽそっと呟くと、幸登は意味を理解しているのかわからないけれど「おう」と全く気にしない口調で笑った。


 ことあるごとに過去に縋って、目の前にいる幸登とぶつかることを疎かにしていた。不満の理由を考えることもせずに、人と比べてしまった。

 あのときのわたしは確かに幼かった。間違いばかりで、逃げてばかりだったかもしれない。でも、一五歳のわたしなりに、必死に考えて、選んだことだった。


 間違って、傷ついて、泣いて、後悔して、そして知らず知らずのうちに学んだものがたくさんある。


 あの日々があったから、わたしは幸登に告白できたんだと思うんだ。

 こんどこそ、ちゃんと言葉にして伝えたいと思ったから、わたしから思いを口にすることができたんだ。


 そっと手を伸ばして、幸登の手をとった。
 大きくて温かいそれは、わたしのてをすっぽりと、簡単に包み込む。




「あのね、夢を見たんだ」
「どんな?」
「すごく、辛くて、悲しくて、素敵な夢」

 じわりと、涙が浮かんだ。