先生が挨拶を終えて出て行くと、セイちゃんはすぐに行動に移した。
今坂くんに近づいていき、ふたり揃って教室から出て行く。なにも知らなかったのだろう紗耶香と真美は吃驚した表情でふたりの背中を見送り、姿が見えなくなると顔を何度も見合わせた。
「じゃあ、わたし帰るね」
「え? ちょ、ちょっと? なんで? いいの?」
紗耶香が焦ってわたしの肩をがしりと掴んで顔を近づけた。
「うん、いいの。ごめんね。また今度、遊ぼうね」
なぜか心がすごく軽い。自然と溢れるような笑みを向けると、ふたりにも伝わったんだろう、それ以上追求することなく「絶対連絡してよね!」と強く言われた。
廊下に出ると、みんなが別れを惜しんで泣いたり、記憶を残したりしていた。帰路につくのはきっとまだまだ先だろう。
靴箱にはわたし以外、誰の姿も見当たらなかった。
カラフルな、わたしの上靴。このキラキラ輝くこれを履くことは、もう二度とない。
ごめんね、セイちゃん。
きっとセイちゃんはわたしに怒るだろう。今坂くんから明確に聞かなくても、セイちゃんはすべてを察して、わたしが気を使ったんだと思うに違いない。さっきも、せっかく言ってくれたのに。
ごめんね、その言葉にわたしは応えることはできないんだ。
許さなくていいよ。勇気を振り絞って言ってくれたのに、それを無下にするようなことしか出来ないわたしなんか、許さなくていい。
直接ちゃんと謝ることが出来なくてごめんね。
五年前も今回も、彼の言葉を聞こうともしないでごめんね。
謝罪は、未来で、ちゃんと言うから。
外には季節外れの珍しい粉雪が、ちらちらと舞っていた。