針のように冷たく突き刺さる風が正面からびゅうびゅうと吹きすさぶ。乱れる髪の毛を抑えて一瞬目を瞑った。

「先に、謝っとく」
「――え?」

 わたしがほんの少し足を止めた、その間で、セイちゃんはわたしの数歩前を歩いていた。

背を向けられたまま、わたしの鼓膜を響かせたその声は、とても柔らかいものだった。

「昨日のは、八つ当たり。今坂と、出かけたかったけど、惨めだから断って、そのくせちなは悪くないのに、ちなに八つ当たりした」

 乾いた笑いが聞こえてきた。

 わたしはなにも言えなくて、ただ黙ってセイちゃんの言葉に耳を傾けた。なぜか、距離を縮めてはいけない気がして、わたしの脚は地面にぴたりとくっついたまま動けなかった。

「ほんとは、あたしが先にちなに言うつもりだったのになあ……そしたら、ちなは優しいからきっと、今坂のことが好き、なんて言わないと思ったのに」

 あーあ、と背を伸ばしたセイちゃん。相変わらずかかしみたいに立っていることしかできないわたし。

「薄々、察してたんだよ」
「……う、ん」
「ちなが今坂を好きなことも、今坂がちなを好きなことも、ね」

 セイちゃんは、ずっとどんな気持ちでいたんだろう。五年前も、今も、無理を感じるほどに明るい口調がわたしの胸をぎゅうぎゅうと締め付ける。

 わたしはセイちゃんを傷つけて苦しめてばかりだったのかな。

 セイちゃんはひとりで数歩、ゆっくりと先に進む。わたしとの距離はまた少し、広がった。

「でも、よかった。ちながあたしに言ってくれて。ずるくならずに済んだし、隠さずにぶつかってきてくれたってことは、多分、嬉しい事なんだろうね」

 そんなことはない。

 だってわたし、五年前は言えなかった。ずっと、頑なに黙っていた。どれだけセイちゃんに問いつめられても、言えなかった。

一度ついた嘘を貫き通そうとしたんだ。だから、今回は言えただけ。本当のわたしは――一五歳のわたしは、弱くてずっと逃げていた。