中盤に、悪魔が現れる。


特に、5、6、7回あたりは投手にとって魔のイニングだ。


序盤は誰でも集中力が凄まじい。


気が緩むなんてことは、まずない。


しかし、この執拗すぎる暑さによる、肉体の疲労。


打ち取り、打ち込まれ、その繰り返しが積み重なった精神的疲労。


それらがタッグを組んで、球威に思わぬ影響を与えてくる。


あと3イニングと言えども、9回が遠く感じる。


終わりが見えない。


あと、何球投げれば先が見えてくるのかも分からない。


そもそも、野球は最後の最後まで何が起こるか分からないのだ。


何が起きても、不思議ではない。


だから、中盤が何よりも怖いのだ。


どうやら、疲れ切っているのは相手投手も同じのようだった。


7回の表。


南高校の攻撃。


意外な形で、大チャンスが巡ってきた。


先頭打者、遠藤が連続ボールの四球で出塁。


その直後のワイルドピッチで、遠藤は2塁へ進んだ。


続く打者、昌樹がデッドボールで出塁。


ノーアウト、1、2塁。


そこで回ってきた打順が、おれだった。


バッターボックスに立ち、片足だけを外して、監督のサインを確認した。


直球だけを狙って打て。


それ以外は見逃し。


じゃあ、その直球が来なかったらどうするんだよ、と思いながら頷き返した。


しかし、監督のその采配の意味を知るまで、そう時間はかからなかった。


疲れているのか、集中力が途切れてしまったのか。


相手投手の投球は、ことごとく乱れた。


どれもこれもストライクゾーンを大きく外れ、1球もストライクが来ないまま、おれも四球で出塁となった。


ノーアウト、満塁。


バッターボックスに、イガが入った時だった。


1塁ベース上で、おれは野球ドラマを観た。