鈴蘭の声が、春を呼ぶ。 【シナリオ】




〇 銀鈴館・舞台脇(午前)

小夜が、台本を開いている。

卓の隅に、新聞社へ渡した訂正申し入れの控え。

小夜は一度そちらへ目を向け、台本へ戻る。

水野が映写の準備を終える。

清玄「今日は、どこから?」

小夜「娘が、青年を見送るところから、お願いいたします」

映像が始まる。

幕の中で、青年が鞄を持ち上げる。

娘は戸口に立っている。

小夜〈娘の声〉「どうか、お気をつけて」

青年が振り返る。

小夜「娘は、笑って送り出しました」

清玄「そこまで」

映像が止まる。

小夜が顔を上げる。

清玄「娘は、笑っていましたか」

小夜は幕を見る。

娘の手が、戸口の柱を握っている。

小夜「……口元だけです」

清玄「あなたの言葉で、無事に見送ったことにしてしまわないように」

小夜は鉛筆を取る。

「笑ったあとを見る」

余白へ書く。

〇 九条映画・専務室(昼)

蓮太郎の机に、英国出張の書類。

小夜が入ってくる。

顔を見合わせると、二人とも少し笑う。

小夜「お呼びと伺いました」

蓮太郎「座って」

小夜が椅子へ座る。

蓮太郎は書類をそろえる。

話し始めようとして、止まる。

小夜が、その手元を見る。

小夜「お仕事のお話ですか」

蓮太郎「英国へ行くことになった」

小夜の笑みが消える。

蓮太郎「輸入作品の契約と、取引先との交渉だ」

小夜「……いつ、お発ちに?」

蓮太郎が予定を示す。

小夜は日付を見る。

小夜「もう、決まっているのですね」

蓮太郎「父から任された。引き受けた」

小夜は紙から目を離す。

小夜「どのくらい、いらっしゃるのですか」

蓮太郎「交渉次第で、まだ分からない」

小夜がうなずく。

膝の上で、指を重ねる。

小夜「大事なお仕事ですね」

蓮太郎「うん」

小夜「でしたら……どうか、お気をつけて」

蓮太郎は、その顔を見る。

口元だけの笑み。

蓮太郎「小夜さん」

小夜が顔を上げる。

蓮太郎「そんなふうに、すぐ送り出さなくていい」

小夜の指が止まる。

小夜「引き止めても、よろしいのですか」

蓮太郎は答えかける。

言葉が出ない。

小夜が目を伏せる。

小夜「困らせたいわけでは、ありません」

蓮太郎「分かっている」

小夜「でも、私には言ってくださるのに」

蓮太郎が彼女を見る。

小夜「辞めてほしくないとか、行ってほしくないとか……」

声が震える。

小夜「私が言うと、お仕事の邪魔になる気がして」

蓮太郎は椅子から立ちかけ、止まる。

小夜の前へ膝を折る。

小夜が驚いて、顔を上げる。

蓮太郎「俺も、離れたくない」

小夜の目が潤む。

蓮太郎「引き受けると答えたあと、君にどう話そうか、そればかり考えた」

小夜「……では、少しだけ」

蓮太郎がうなずく。

小夜「今は、行かないでほしいです」

蓮太郎の表情が揺れる。

小夜は涙をこらえる。

小夜「お仕事をお断りにならなくても……今だけ、そう思っていても、よろしいですか」

蓮太郎が、膝の上の小夜の手へ触れる。

小夜はその手を握る。

蓮太郎「俺も、今は、ここにいたい」

二人はしばらく、そのままでいる。

机の上には、出発の日付。

〇 篠宮家・庭(午後・数日後)

桜の葉が揺れている。

征二郎が、小夜の前に立つ。

小夜「お時間をいただき、ありがとうございます」

征二郎はうなずく。

小夜は用意してきた言葉を探す。

だが、口を開けない。

征二郎「今日は、聞くために来た」

小夜が顔を上げる。

征二郎の手は、帽子の縁を強く握っている。

小夜はそれを見る。

小夜「結婚のお申し込みには、お応えできません」

征二郎が目を伏せる。

小夜「私には、お慕いしている方がいます」

征二郎「九条氏だね」

小夜がうなずく。

征二郎は、ゆっくり息を吐く。

征二郎「……僕が、先に聞いてしまったな」

小夜「はい」

征二郎の口元が、わずかに動く。

笑おうとして、やめる。

征二郎「君は、僕となら安心できると言った」

小夜の目が潤む。

小夜「本当です」

征二郎「それでも、違うんだね」

小夜は目をそらさない。

小夜「はい」

風が通る。

征二郎が、小夜の向こうの家を見る。

征二郎「彼は、君を泣かせた」

小夜の指が動く。

征二郎「記事の日も、上映会の帰りも。……僕は、あんな顔をさせたくなかった」

小夜「これから、一度も泣かないとは、思いません」

征二郎が彼女を見る。

小夜「蓮太郎様に腹が立つことも、あると思います」

征二郎「それで、いいのか」

小夜はすぐには答えない。

小夜「よくないときは、お話しします」

征二郎の手が、帽子を握り直す。

小夜「黙って、分かっていただくのを待つことは、やめたいのです」

征二郎は、長く小夜を見る。

征二郎「僕にも、そうしてくれたんだね」

小夜がうなずく。

涙が一滴、落ちる。

征二郎は手を伸ばしかける。

止める。

征二郎「今は、君の幸せを喜ぶところまで、行けない」

小夜「はい」

征二郎「だから、少し、会わずにいたい」

小夜が頭を下げる。

征二郎「謝らなくていい」

小夜は顔を上げる。

征二郎「君が悪いことをしたようにされると、僕の気持ちまで、困ったものになる」

小夜が唇を結ぶ。

征二郎は帽子を持ち直す。

征二郎「返事は、受け取った」

小夜「……ありがとうございます」

征二郎が会釈する。

庭を出ていく。

門をくぐったところで、一度足を止める。

振り返らず、そのまま歩き出す。

小夜は追わない。

〇 篠宮家・座敷(夕方)

タカが座っている。

小夜が向かいへ座る。

小夜「征二郎さんには、私からお返事をしました」

タカ「聞きました」

卓の上に、封筒。

小夜が用意した返済分。

タカはそれを見たまま言う。

タカ「九条様は、外国へ行かれるのでしょう」

小夜が顔を上げる。

小夜「はい」

タカ「帰っていらっしゃるまで、どれだけ待つの」

小夜「まだ、分かりません」

タカ「先方の家は、あなたを認めているの?」

小夜は黙る。

タカ「征二郎さんなら、少なくとも、あなたを迎えるつもりでお話しになった」

小夜の指が、膝の上で握られる。

タカ「あなたは、約束のないものを選んだのね」

小夜は目を伏せる。

長い間。

小夜「……寂しいです。怖くもあります」

タカが彼女を見る。

小夜「でも、征二郎さんに、それを埋めていただくことは、できません」

タカは答えない。

小夜が封筒を、少し前へ出す。

小夜「仕事は、続けます。家のことも、なくなったとは思っていません」

タカは封筒に手を置く。

だが、引き寄せない。

〇 銀鈴館・舞台脇(午後・夏)

小夜が、短い作品を語り終える。

客席から拍手。

小夜が頭を下げる。

最後列に、蓮太郎。

小夜が顔を上げると、蓮太郎が拍手している。

目が合う。

蓮太郎が微笑む。

小夜も笑う。

舞台脇へ戻ると、大迫が待っている。

大迫「新聞社から、返答が届きました」

小夜の表情が変わる。

大迫「起用についての記述は、訂正すると。ただ、掲載の形については、まだ話が必要です」

小夜がうなずく。

大迫「専務の出張後も、私が続けます」

小夜「お願いいたします」

小夜は台本を閉じる。

拍手の余韻が、まだ客席に残っている。

〇 銀鈴館・裏口(夕方)

蓮太郎が待っている。

小夜が出てくる。

小夜「今日、いらっしゃるとは思いませんでした」

蓮太郎「出発前に、聞いておきたかった」

小夜「先生には、まだ早くなるところがあると」

蓮太郎「でも、娘が返事を待つところは、待てていた」

小夜が、少し嬉しそうに笑う。

二人が歩き始める。

小夜は鞄から、封筒を取り出す。

小夜「最初の、お手紙です」

蓮太郎が受け取る。

小夜「船の中で、お読みください」

蓮太郎が封へ指をかける。

小夜が、その手を押さえる。

小夜「船の中で、と申し上げました」

蓮太郎が顔を上げる。

小夜は自分から触れたことに気づき、手を離そうとする。

蓮太郎が、そっとその手を取る。

蓮太郎「では、それまで開けない」

小夜がうなずく。

蓮太郎は封筒を内ポケットへ入れる。

小夜「明日は、新しい作品の準備があります。港へは、伺えません」

蓮太郎「うん」

小夜「行きたかったのです。でも、皆様にお願いしてしまうのは……」

蓮太郎「君が決めたなら、それでいい」

小夜は彼を見る。

小夜「本当に?」

蓮太郎が、少し笑う。

蓮太郎「見送ってほしいとは、思っている」

小夜の目が潤む。

蓮太郎「だが、君が仕事をするところも、好きなんだ」

小夜は口元を押さえる。

蓮太郎「今のは、手紙に書くまで取っておくべきだったかな」

小夜が首を振る。

小夜「今、聞けて、嬉しいです」

二人は裏口のそばで立ち止まる。

つないだ手を、どちらも離さない。

蓮太郎「鈴蘭のハンカチは、持っていて」

小夜「お返ししなくて、よろしいのですか」

蓮太郎「帰ったら、受け取る」

小夜がうなずく。

小夜「では、帰っていらしたら」

蓮太郎「うん」

小夜「私から、会いに伺っても、よろしいでしょうか」

蓮太郎が、彼女の手を少し強く握る。

蓮太郎「来てほしい」

小夜が笑う。

その笑みを見て、蓮太郎が一歩近づく。

小夜も、逃げない。

蓮太郎が身をかがめる。

小夜は目を閉じる。

唇が、短く触れる。

離れたあと、二人とも何も言わない。

小夜が蓮太郎の上着をつまむ。

蓮太郎「……小夜さん」

小夜は顔を伏せたまま、首を振る。

小夜「今は、見ないでください」

蓮太郎は笑わず、彼女をそっと抱き寄せる。

小夜も、その背へ手を添える。

小夜「ちゃんと、帰っていらしてください」

蓮太郎「帰る」

小夜は、その言葉を聞いて目を閉じる。

〇 花月堂・厨房脇(朝・大正十二年九月一日)

ふみが、小夜へ昼食の包みを渡す。

小夜の頬が、ふと緩む。

ふみが気づく。

ふみ「その顔なら、ちゃんとお別れできたんだね」

小夜は慌てて包みを受け取る。

小夜「ありがとうございました。お昼に、いただきます」

ふみ「今のは、返事になっていないよ」

小夜が赤くなる。

ふみが笑う。

小夜は鞄の中を確かめる。

台本。

稽古の帳面。

鈴蘭のハンカチ。

小夜「行ってまいります」

ふみ「行っておいで」

〇 横浜港・乗船待合所(午前)

蓮太郎と大迫が、手続きを待っている。

大迫が書類を確認する。

大迫「滞在先への連絡は、こちらで」

蓮太郎が受け取る。

内ポケットへ入れようとして、小夜の手紙に触れる。

封を切っていない封筒。

大迫が気づく。

大迫「篠宮さんからですか」

蓮太郎「船で読むように言われた」

大迫「では、もう少しですね」

蓮太郎がうなずく。

封筒を戻す。

〇 銀鈴館・舞台脇(昼前)

小夜が台本を広げる。

水野は映写の準備をしている。

清玄が入口から入る。

清玄「支度が済んだら、食事を」

小夜「はい」

小夜が湯飲みへ手を伸ばす。

水面が揺れる。

手が止まる。

足元から、低い響き。

棚が震える。

清玄「離れて」

激しい揺れ。

小夜が卓へ手をつく。

台本が落ちる。

器が割れる。

吊られた灯りが大きく振れる。

受付の係が、戸口で倒れかける。

小夜が腕をつかむ。

清玄「頭を守って!」

小夜は係と身を低くする。

床に落ちた台本。

鞄から滑り出た、鈴蘭のハンカチ。

小夜の目が、そこへ向く。

頭上で、何かが砕ける音。

小夜は係の肩を抱き、壁際から離れる。

〇 銀鈴館・廊下(昼)

揺れが弱まる。

清玄が出口を確かめる。

小夜は係を支える。

水野が映写の場所から来る。

水野「動けますか!」

小夜「はい!」

再び、足元が揺れる。

小夜がよろめく。

水野が二人を支える。

小夜の視線が、舞台脇へ戻る。

水野「今は、人を!」

小夜が顔を上げる。

係の腕を持ち直す。

清玄のあとを追って、外へ向かう。

〇 横浜港・乗船待合所(昼)

窓が震える。

書類が床へ落ちる。

大迫が椅子から立ちかけ、足を取られる。

蓮太郎が腕をつかむ。

激しい揺れ。

人々の叫び。

蓮太郎と大迫が、倒れる物から身を避ける。

蓮太郎の額に、破片がかすめる。

血がにじむ。

だが、蓮太郎は大迫の腕を離さない。

〇 銀鈴館・通り(昼)

人々が外へ出ている。

粉塵。

遠くから、崩れる音。

小夜が係を座らせる。

清玄と水野が、従業員を確かめる。

小夜は一人ずつ顔を見る。

小夜「……皆様、いらっしゃいます」

水野がうなずく。

小夜が、館の入口へ目を向ける。

一歩、動きかける。

清玄「小夜さん」

小夜が止まる。

清玄「戻れません」

小夜は入口を見る。

台本も、ハンカチも中にある。

唇を結ぶ。

その向こうから、煙が流れてくる。

小夜の顔が変わる。

小夜「女将さん……」

〇 横浜港・待合所の外(昼)

混乱する人々。

乗船は中止されている。

蓮太郎が周囲を見る。

額の血を、袖で拭う。

大迫「専務、傷を」

蓮太郎「東京も、揺れたはずだ」

大迫は答えられない。

蓮太郎が歩き出す。

行く先で、壁の一部が崩れる。

大迫が蓮太郎の肩をつかむ。

大迫「今、走っても、戻れません!」

蓮太郎は足を止める。

荒い息。

内ポケットへ手を当てる。

小夜の手紙。

蓮太郎「……銀鈴館に、いる」

大迫「まず、動ける道と、連絡できる場所を確かめましょう」

蓮太郎が目を閉じる。

一度、うなずく。

〇 花月堂・店先(午後)

倒れた黒板。

割れた器。

ふみが、客を外へ誘導している。

小夜と水野が近づく。

小夜「女将さん!」

ふみが振り返る。

ふみ「小夜ちゃん!」

小夜が駆け寄る。

ふみの腕に傷。

小夜「お怪我が」

ふみ「中の人は、皆出たよ」

水野が入口から奥を確かめる。

水野「もう、入らないほうがいいです」

ふみが帳場へ目を向ける。

ふみ「帳面が……」

煙が、店の前を横切る。

通りの向こうから、避難を呼びかける声。

ふみが一歩、中へ戻ろうとする。

小夜が、その手をつかむ。

ふみ「小夜ちゃん」

小夜「私も、置いてきました」

ふみが小夜を見る。

小夜「台本も、大事な物も」

声が震える。

小夜「でも、女将さんは、置いていけません」

ふみの目が潤む。

小夜は手を離さない。

水野「こちらへ。離れましょう」

ふみが、小夜の手を握り返す。

三人が歩き出す。

背後で、花月堂の看板が風に揺れている。

〇 避難先の広場(夜)

人々が身を寄せ合っている。

小夜が、ふみの腕へ布を巻く。

水野は、ほかの従業員の消息を確かめに出ている。

ふみ「鞄は、持って出られたんだね」

小夜がうなずく。

中を開ける。

稽古の帳面。

ふみから受け取った昼食。

小夜は包みを開き、パンを分ける。

ふみ「食べられるかい」

小夜は一口かじる。

飲み込めない。

手を下ろす。

小夜「港も……ひどかったのでしょうか」

ふみは、すぐには答えない。

小夜「蓮太郎様は、船に乗る前だったかもしれません」

小夜の指が、パンを押しつぶす。

小夜「昨日、帰ると、おっしゃいました」

ふみが小夜の手へ触れる。

小夜「帰っていらしたら、私から会いに行くと……」

言葉が途切れる。

ふみ「今は、分からないね」

小夜の目から涙が落ちる。

ふみ「分からないうちは、いなくなったことにしなくていい」

小夜は肩を震わせる。

ふみの手を、両手で握る。

少し離れたところで、少女が泣いている。

少女「お家に帰りたい」

母親が抱いているが、少女は泣きやまない。

小夜はその声を聞く。

すぐには動けない。

目元を、自分の袖で拭く。

膝の上の帳面を開く。

「誰に、何を届ける?」

小夜は文字を見つめる。

帳面を閉じる。

ふみ「無理に、何かしなくてもいいよ」

小夜がうなずく。

それから、少女の方を見る。

小夜「……少しだけ、話してみます」

〇 横浜・避難した広場(夜)

蓮太郎が、建物から離れた場所に座っている。

大迫が、額の傷へ布を当てる。

蓮太郎は内ポケットから、封筒を取り出す。

小夜の手紙。

封を切る。

小夜の声(手紙)「蓮太郎様。船の中では、どのような景色が見えるのでしょう。お帰りになったら、聞かせてください」

蓮太郎の指が、便箋の端を押さえる。

小夜の声(手紙)「私は、明日から新しい作品の準備をします。今度は、娘が、自分から会いに行くお話です」

蓮太郎が、遠い空を見る。

煙の向こうに、赤い光。

小夜の声(手紙)「寂しくないとは、書けませんでした。でも、お手紙なら、少し素直に申し上げられそうです」

蓮太郎は便箋へ目を戻す。

小夜の声(手紙)「早く、お会いしたいです」

蓮太郎の息が止まる。

手紙を、両手で持つ。

大迫がそばへ座る。

何も尋ねない。

蓮太郎は顔を伏せる。

蓮太郎「……帰ると言ったんだ」

大迫がうなずく。

蓮太郎は手紙を丁寧に畳む。

内ポケットへ戻す。

その上から、手を押し当てる。

〇 避難先の広場(夜)

小夜が、少女と母親の前に座っている。

少女は泣いたまま、小夜を見る。

小夜「小さな鳥のお話を、聞いてみませんか」

少女「お家に帰る鳥?」

小夜の声が、出かけて止まる。

小夜「……帰る道を、探す鳥です」

少女が母親へ身を寄せる。

小夜は、一度息を吸う。

小夜「鳥は、暗くなると、木の枝へ降りました」

声が震える。

小夜は急がない。

少女の顔を見る。

小夜「そこには、先に休んでいる鳥がいました」

小夜〈小さな鳥の声〉「ここに、いてもいい?」

少女が、小夜を見つめる。

小夜〈もう一羽の鳥の声〉「いいよ。朝になったら、道を探そう」

近くにいた子どもが、顔を上げる。

小夜「二羽の鳥は、同じ枝で、夜を過ごしました」

少女「朝になったら、分かる?」

小夜は少女を見る。

すぐに、約束はしない。

小夜「見えるものが、少し増えるかもしれません」

少女は母親の手を握る。

小夜も、自分の手を重ねる。

その指は、まだ震えている。

ふみが隣へ座る。

小夜はふみの肩へ、少しだけ身を寄せる。

遠くの空は赤い。

それでも、小夜は次の言葉を探す。

小夜「そして、鳥は……」

声が、そばにいる人々へ届いていく。