「それじゃあ、体力テストについて説明するぞ」
着替え終わり教室に集まった生徒たちに担任の先生がプリントを配っていく。
「今日は午前中を使って体力テストをする。種目は握力、長座体前屈、上体起こし、反復横跳び、持久走、それから立ち幅跳びとハンドボール投げだ」
「結構あるな……」
思わずプリントを見ながら呟く。
「去年もやっただろ。忘れたのか?」
「一年も経てば忘れますよ」
どうやらそう思ったのは俺だけではないようだ。
「お前らなぁ……」
先生が呆れたようにため息を吐いた。
「それぞれ指定された場所に移動して、順番に測定していく。基本的には二人一組で行動して、片方が測定している間はもう片方が記録していけよ」
健康診断のときと似たような感じだな。
ただ、問題はここからだ。
「先生、ペアって誰とでもいいんですか?」
高橋が手を挙げる。
「基本的には自由だ。ただし、種目によっては人数の都合もあるから指示には従えよ」
去年は出席番号順だったのに、まさか今年から自由になるとは思わなかった。
ペアを組むのって自由になればなるほど困るからな。
「じゃあ、俺は女子とペアでもいいですか? 俺だけ仲間外れにされるもん!」
高橋がいる陽キャグループはいつも五人で行動している。
いじられる役だから、すでにペアじゃなくなると思っているのだろう。
「ダメに決まってるだろ」
「なんでですか!」
「なんで許されると思ったんだよ……」
教室に笑いが起こる。
今日も高橋のテンションはいつも通りだ。
こういう姿を見ると、俺とは本当に住んでいる世界が違う気がする。
もはや目立つために生まれてきたような存在だな。
「それと体力テストの場所は体育館、グラウンド、校外に分かれている。移動するときは勝手に戻ってくるなよ。順番通りに動いて行くからな」
「はーい」
「お前ら返事だけはいいな……」
先生はそう言ってプリントを指差した。
「最初は体育館だ。終わったらクラスごとに次の場所へ移動する。じゃあ、準備ができたやつから体育館へ行けよ」
プリントには種目ごとに番号が振り分けられていた。
どうやらその順番通りに移動するらしい。
みんなが立って移動を始めた。
俺もプリントを持って席を立つ。
「黒瀬、行こう」
「ああ」
黒瀬も立ち上がるが、やっぱり隣に並ぶとデカいな。
俺だって男子高校生としては平均くらいあるはずなのに、改めて身長差を感じる。
「俺のペア……みなとん一緒に……いや、あいつらチームクローズだ」
高橋は誰とペアを組むか迷っていた。
急にペアを組めって言われても困るから仕方ない。
ボッチ同盟を組まなかったら、今頃俺が高橋みたいになっていただろう。
それに俺はいつの間に〝みなとん〟になったんだ。
俺と黒瀬はチームクローズって呼ばれているし。
「よし、メガネっち一緒に組もう!」
「えっ……」
「お願い!」
高橋に声をかけられた男子は戸惑っていた。
陽キャに声をかけられると困るからな。
あたふたしているクラスメイトを見て、俺と黒瀬は自然と目が合う。
高橋は誰が相手でも気にしないのだろう。
すでに声をかけた生徒と無理やり肩を組んでいるからな。
「黒瀬って去年の体力テストどうだった?」
「覚えてない」
「えっ……?」
「記録とか気にしてなかったから」
男子は体力テストになると、ジュースを賭けるぐらい争っている。
もちろん運動も平凡な俺は補講にならない程度に適当にやっている。
体育教師が見まわっているから、少しでもサボっているのがバレたら補講になるからな。
だから、ほどほどにやらないといけない。
黒瀬はそれだけ言うと、先に教室を出ていく。
「あ、待って」
俺も慌てて後を追う。
廊下に出ると、他のクラスの生徒たちも体育館へ向かっていた。
普段なら友達同士で話しながら歩くところなんだろうけど、俺と黒瀬は静かに歩く。
だけど、この時間が嫌いってわけではない。
「そういえば、黒瀬って体育とか好き?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ、部活とかやればよかったのに」
「向いてないから」
「動くの早いのに?」
「そういう意味じゃない」
「どういうことだ……」
やっぱりよくわからない。
黒瀬は時々こうやって意味深なことを言う。
でも、聞き返してもあまり答えてくれないので、最近は深く考えないことにしている。
返事だけじゃなくて、話してくれるようになっただけでもマシか。
階段まで来ると、黒瀬が先に降りていく。
「おい、ちょっと待ってって」
俺が普通に階段を降りている横で、黒瀬は長い脚を使ってどんどん先へ進んでいく。
「速いって」
「あ……悪い」
黒瀬が急に立ち止まった。
「おい、急に止まるなよ」
「どっちなんだ……」
俺はそのまま黒瀬にぶつかってしまった。
それでも相変わらずびくともしない黒瀬に再び頭突きをする。
「俺と脚の長さが違うんだからな?」
「くくく、そうだな」
「おい、笑うなよ」
黒瀬は静かに笑みを深める。
今度は俺に合わせるように黒瀬も歩き始めた。
俺の腰の位置が黒瀬の股下あたりだから、歩くだけで自然と歩幅が異なる。
さらに黒瀬は歩くのが速いから、よほど合わせないと先に歩いてしまうのだろう。
隣で歩く黒瀬を俺は肘で突く。
「もしかして俺に合わせてくれてる?」
「そうだけど」
「やっぱり」
黒瀬の言葉に嬉しくなった。
人付き合いが苦手そうな黒瀬のことだから、勝手にスタスタ歩くと思ったけど、こういうところは意外と優しい。
「ありがとう」
「いや……別に」
黒瀬は少しだけ顔を逸らした。
隙間から見える耳が、なんとなく赤い気がする。
今日は結構気温が高いから暑いのかな。
体育館へ着くと、すでに何人かの生徒が集まっていた。
「最初は握力だったな」
プリントを確認しながら、俺は測定場所を探す。
「黒瀬、先にやる?」
「黒川からでいい」
「じゃあ、俺から」
係の先生から握力計を受け取り、言われた通りに握る。
「いくぞー」
どっしり構えて力を込める。
「32だな」
やっぱり可もなく不可もない数値だ。
黒瀬が記録用紙に数字を書き込んでいく。
「次、左」
「うん」
同じように力を込めて握る。
「29」
黒瀬がまた記録し、俺の握力測定が終わった。
「こんなもんか」
「普通じゃないか」
「黒瀬はどのくらいなんだろうな」
鍛えなくても筋肉質になるほどだ。
どれだけ握力があるのか俺も気になる。
俺から握力計を受け取った黒瀬が軽く握る。
「……62」
「はぁん!?」
思わず声が出た。
俺は握力計を覗き込むと、本当に62の目盛りに握力計の針が向いていた。
「62って俺の倍近くあるじゃん!」
「ああ」
「それ人並みとは言わないだろ」
「……男子なら普通だろ」
「いやいやいや」
俺は思わず黒瀬の手を見る。
手の平も大きいし、指もかなり長い。
黒瀬の手を持つと、手を合わせて比べる。
一瞬、ビクッとしていたが黒瀬はやられるがままだ。
「俺の倍近くあるじゃんか」
俺の指から一関節以上指先が出ていた。
手が大きいから握力も強いのだろう。
「そうか?」
「そうだよ!」
黒瀬は不思議そうに自分の手を見ている。
本人はあまり気にしていないらしい。
「次は左だな」
黒瀬は握力計を左手に持ち替える。
「60」
「こっちもすごいな……」
俺は急いで数字を書き込む。
こうしてペアを組んでいると、黒瀬の身体能力が嫌でもわかる。
本当に俺と同じ男子高校生なんだろうか。
「次はあっちだな」
「ああ」
握力測定を終えた俺たちは次の種目へ移動する。
まだ体力テストは始まったばかりだ。
見たことない黒瀬の結果を楽しみに、俺は黒瀬の横を歩いていく。
着替え終わり教室に集まった生徒たちに担任の先生がプリントを配っていく。
「今日は午前中を使って体力テストをする。種目は握力、長座体前屈、上体起こし、反復横跳び、持久走、それから立ち幅跳びとハンドボール投げだ」
「結構あるな……」
思わずプリントを見ながら呟く。
「去年もやっただろ。忘れたのか?」
「一年も経てば忘れますよ」
どうやらそう思ったのは俺だけではないようだ。
「お前らなぁ……」
先生が呆れたようにため息を吐いた。
「それぞれ指定された場所に移動して、順番に測定していく。基本的には二人一組で行動して、片方が測定している間はもう片方が記録していけよ」
健康診断のときと似たような感じだな。
ただ、問題はここからだ。
「先生、ペアって誰とでもいいんですか?」
高橋が手を挙げる。
「基本的には自由だ。ただし、種目によっては人数の都合もあるから指示には従えよ」
去年は出席番号順だったのに、まさか今年から自由になるとは思わなかった。
ペアを組むのって自由になればなるほど困るからな。
「じゃあ、俺は女子とペアでもいいですか? 俺だけ仲間外れにされるもん!」
高橋がいる陽キャグループはいつも五人で行動している。
いじられる役だから、すでにペアじゃなくなると思っているのだろう。
「ダメに決まってるだろ」
「なんでですか!」
「なんで許されると思ったんだよ……」
教室に笑いが起こる。
今日も高橋のテンションはいつも通りだ。
こういう姿を見ると、俺とは本当に住んでいる世界が違う気がする。
もはや目立つために生まれてきたような存在だな。
「それと体力テストの場所は体育館、グラウンド、校外に分かれている。移動するときは勝手に戻ってくるなよ。順番通りに動いて行くからな」
「はーい」
「お前ら返事だけはいいな……」
先生はそう言ってプリントを指差した。
「最初は体育館だ。終わったらクラスごとに次の場所へ移動する。じゃあ、準備ができたやつから体育館へ行けよ」
プリントには種目ごとに番号が振り分けられていた。
どうやらその順番通りに移動するらしい。
みんなが立って移動を始めた。
俺もプリントを持って席を立つ。
「黒瀬、行こう」
「ああ」
黒瀬も立ち上がるが、やっぱり隣に並ぶとデカいな。
俺だって男子高校生としては平均くらいあるはずなのに、改めて身長差を感じる。
「俺のペア……みなとん一緒に……いや、あいつらチームクローズだ」
高橋は誰とペアを組むか迷っていた。
急にペアを組めって言われても困るから仕方ない。
ボッチ同盟を組まなかったら、今頃俺が高橋みたいになっていただろう。
それに俺はいつの間に〝みなとん〟になったんだ。
俺と黒瀬はチームクローズって呼ばれているし。
「よし、メガネっち一緒に組もう!」
「えっ……」
「お願い!」
高橋に声をかけられた男子は戸惑っていた。
陽キャに声をかけられると困るからな。
あたふたしているクラスメイトを見て、俺と黒瀬は自然と目が合う。
高橋は誰が相手でも気にしないのだろう。
すでに声をかけた生徒と無理やり肩を組んでいるからな。
「黒瀬って去年の体力テストどうだった?」
「覚えてない」
「えっ……?」
「記録とか気にしてなかったから」
男子は体力テストになると、ジュースを賭けるぐらい争っている。
もちろん運動も平凡な俺は補講にならない程度に適当にやっている。
体育教師が見まわっているから、少しでもサボっているのがバレたら補講になるからな。
だから、ほどほどにやらないといけない。
黒瀬はそれだけ言うと、先に教室を出ていく。
「あ、待って」
俺も慌てて後を追う。
廊下に出ると、他のクラスの生徒たちも体育館へ向かっていた。
普段なら友達同士で話しながら歩くところなんだろうけど、俺と黒瀬は静かに歩く。
だけど、この時間が嫌いってわけではない。
「そういえば、黒瀬って体育とか好き?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ、部活とかやればよかったのに」
「向いてないから」
「動くの早いのに?」
「そういう意味じゃない」
「どういうことだ……」
やっぱりよくわからない。
黒瀬は時々こうやって意味深なことを言う。
でも、聞き返してもあまり答えてくれないので、最近は深く考えないことにしている。
返事だけじゃなくて、話してくれるようになっただけでもマシか。
階段まで来ると、黒瀬が先に降りていく。
「おい、ちょっと待ってって」
俺が普通に階段を降りている横で、黒瀬は長い脚を使ってどんどん先へ進んでいく。
「速いって」
「あ……悪い」
黒瀬が急に立ち止まった。
「おい、急に止まるなよ」
「どっちなんだ……」
俺はそのまま黒瀬にぶつかってしまった。
それでも相変わらずびくともしない黒瀬に再び頭突きをする。
「俺と脚の長さが違うんだからな?」
「くくく、そうだな」
「おい、笑うなよ」
黒瀬は静かに笑みを深める。
今度は俺に合わせるように黒瀬も歩き始めた。
俺の腰の位置が黒瀬の股下あたりだから、歩くだけで自然と歩幅が異なる。
さらに黒瀬は歩くのが速いから、よほど合わせないと先に歩いてしまうのだろう。
隣で歩く黒瀬を俺は肘で突く。
「もしかして俺に合わせてくれてる?」
「そうだけど」
「やっぱり」
黒瀬の言葉に嬉しくなった。
人付き合いが苦手そうな黒瀬のことだから、勝手にスタスタ歩くと思ったけど、こういうところは意外と優しい。
「ありがとう」
「いや……別に」
黒瀬は少しだけ顔を逸らした。
隙間から見える耳が、なんとなく赤い気がする。
今日は結構気温が高いから暑いのかな。
体育館へ着くと、すでに何人かの生徒が集まっていた。
「最初は握力だったな」
プリントを確認しながら、俺は測定場所を探す。
「黒瀬、先にやる?」
「黒川からでいい」
「じゃあ、俺から」
係の先生から握力計を受け取り、言われた通りに握る。
「いくぞー」
どっしり構えて力を込める。
「32だな」
やっぱり可もなく不可もない数値だ。
黒瀬が記録用紙に数字を書き込んでいく。
「次、左」
「うん」
同じように力を込めて握る。
「29」
黒瀬がまた記録し、俺の握力測定が終わった。
「こんなもんか」
「普通じゃないか」
「黒瀬はどのくらいなんだろうな」
鍛えなくても筋肉質になるほどだ。
どれだけ握力があるのか俺も気になる。
俺から握力計を受け取った黒瀬が軽く握る。
「……62」
「はぁん!?」
思わず声が出た。
俺は握力計を覗き込むと、本当に62の目盛りに握力計の針が向いていた。
「62って俺の倍近くあるじゃん!」
「ああ」
「それ人並みとは言わないだろ」
「……男子なら普通だろ」
「いやいやいや」
俺は思わず黒瀬の手を見る。
手の平も大きいし、指もかなり長い。
黒瀬の手を持つと、手を合わせて比べる。
一瞬、ビクッとしていたが黒瀬はやられるがままだ。
「俺の倍近くあるじゃんか」
俺の指から一関節以上指先が出ていた。
手が大きいから握力も強いのだろう。
「そうか?」
「そうだよ!」
黒瀬は不思議そうに自分の手を見ている。
本人はあまり気にしていないらしい。
「次は左だな」
黒瀬は握力計を左手に持ち替える。
「60」
「こっちもすごいな……」
俺は急いで数字を書き込む。
こうしてペアを組んでいると、黒瀬の身体能力が嫌でもわかる。
本当に俺と同じ男子高校生なんだろうか。
「次はあっちだな」
「ああ」
握力測定を終えた俺たちは次の種目へ移動する。
まだ体力テストは始まったばかりだ。
見たことない黒瀬の結果を楽しみに、俺は黒瀬の横を歩いていく。



