ボッチ同盟を組んだだけなのに、どこか彼の距離感がおかしい

 翌日、不安を抱きながらも学校に到着すると、教室を見回す。

「俺きっと180cm超えたな」
「海斗、ちゃんと現実を受け止めような? 髪の毛立たせても変わらないぞ」
「だははは、相変わらずバカだぜ」

 今日も教室の中は騒がしい。
 そんな中、俺は静かに自分の席へ移動する。

「おはよう」

 俺は後ろの席の彼に声をかけた。

「ああ……」

 だが、返ってきたのは無愛想な返事だけだ。
 朝は血圧が低くて元気がないのだろう。
 俺の父も似たような感じで、朝飯を食べている時は物静かだからね。
 今日から学校生活はうまくいくのだろうか。
 そんなことを思っていると、はしゃいでいる高橋と目が合った。

「くろちーん! 助けてくれー!」
「「くろ……ちん?」」

 俺は周囲をキョロキョロと見回す。
 〝くろちん〟って俺のことを言ってるのだろうか。

「ははは、お前たち同じ動きしているな」

 お前たち……?
 お前たちってことは俺以外にいるってことだよな。
 高橋は笑いながら俺の方にやってきた。

「いや、そもそも二人ともくろちんだろ!」

 その後ろから友達たちがゾロゾロと付いてくる。

「黒川湊と黒瀬(くろせ)蓮(れん)だもんな」

 どうやら俺の後ろの席に座っている巨人は黒瀬蓮って名前らしい。
 座席表が貼られていても、名前を確認していなかった。
 それにしても、陽キャ集団に囲まれると圧迫感がすごい。
 今まで関わって来なかった人たちだからな。

「なあなあ、こいつらひどくないか? 俺が三十分もかけてセットしたモヒカンを叩き潰すんだぞ」
「あっ……うん」

 つい声をかけられても、どうやって返事をすればいいのかもわからない。
 それに俺の反応が薄いのか、ジーッと睨まれているような気がする。
 まるでお前は友達になる資格があるのか。
 そう言われているような気がした。

――ガタッ!

 背後から椅子を引くような音が聞こえた。

「くろちん……?」

 高橋の視線は俺よりかなり上を向いていた。
 黒瀬が席を立ったのだろう。

「ごめん……」

 俺は咄嗟に振り返ると、そのまま黒瀬は教室を出て行った。
 ボソッと呟いた言葉が俺は気になった。
 ただ、この場に俺だけ残されても困る。
 陽キャに囲まれても特に話すことはないからな。

「あっ、俺も連れションしてくる!」

 俺も立ち上がると、そのまま黒瀬を追いかける。

「ははは、海斗振られてるぜ?」
「いきなり声をかけるからだろ?」
「お前たちがゾロゾロ付いてくるからだ!」

 高橋たちはまた冗談のように笑い合っていた。
 相変わらず忍者みたいに動きが素早い黒瀬はそのまま階段を駆け上がっていく。

「三段飛ばしってすげーな……」

 階段を三段飛ばしで上がっていく人を初めて見た。
 俺もマネしてみたけど、二段飛ばしで股が裂けそうになる。

「ってそんなことしてる場合じゃないな」

 突然、逃げ出したことが気になった俺はそのまま階段を登っていくと、最上階の縁で小さく縮こまっている黒瀬を見つけた。
 ……いや、大きいから縮こまっても小さくなれてない。

「大丈夫?」

 声をかけると、黒瀬はビクッとしていた。
 まるで震える大型犬……いや、熊だな。

「迷惑かけてごめん」
「いや、別に迷惑はかかってはないけど……あの場で一人にされると困る」

 俺は隣に座ると、黒瀬は少しだけ横にズレた。
 あまり近づいてほしくないのだろう。
 ただ、その姿が面白くなり、俺も少しずつ近づいていく。
 熊が怯えて逃げていくみたいだ。

「近くに来るな」

 終いには怒られてしまった。
 でも、壁際まで来たら逃げ場がないからね。
 俺の勝ちだ。

「怖いんだ……」

 ……うん。
 勝ち以前に黒瀬を怖がらせていたようだ。

「ごめん」

 俺はその場で謝るが、黒瀬はどこか驚いた顔をしていた。
 目は前髪で隠れているけど、明らかに戸惑っているような気がする。

「あー、俺も陽キャ集団は怖いぞ。見た目からしてタイプが違うしね」
「俺からみたら一緒だよ」
「えっ!?」

 まさか俺も陽キャに思われているとは思わなかった。
 自分でも言うのは恥ずかしいが、ただの平凡な高校生だと思っていたがまさか陽キャ扱いされるとはね。
 家に帰ってもダラダラして、漫画を読んだり、ゲームをしていた俺が陽キャ……ないない。

「みんな同じだ」

 そう言って、黒瀬は立ち上がって階段を下っていく。

「教室に戻るのか?」

 時計を見ると、もうそろそろチャイムが鳴る頃だった。
 俺も黒瀬の後を追いかける。
 まるでストーカーになった気分だ。
 だけど、どこか黒瀬の不思議な存在が俺は気になった。
 とにかく体が大きくて巨人なのに、動きは素早い忍者で何かに怯える熊のようにも見える。
 今まで出会ったことのない人物に俺は興味を持った。