あれから風邪で三日間学校を休んだ。
最初の日は熱でほとんど何もできなかった。
二日目には少し体が楽になったけど、まだ頭がぼんやりしていた。
三日目にはもう学校に行けそうな気がしていたけど、母さんに止められて結局休むことに。
そして四日目――。
「久しぶりの学校だな……」
制服に袖を通しながら少しだけ緊張する。
たった三日休んだだけなのに妙な感じがした。
今までなら学校に行くことは当たり前だった。
だけど、今回は違う。
蓮がどうしているのか。
そればかりが気になっていた。
俺を心配しているのか、蓮からの連絡はなかった。
俺がいない三日間。
蓮はちゃんと過ごせただろうか。
みんなが声をかけてくれるようにはなったが、急に一人になったことで困っていないかな。
休んでいた時はそんなことをベッドで寝ながら考えていた。
昇降口で靴を履き替え、教室へ入ろうとした瞬間、肩に重みがかかる。
「おっ、みーちゃん!」
相変わらず男子高校生にその呼び方をするのかと少し呆れてしまう。
「風邪治ったのか?」
高橋が俺の顔を覗き込んで、ジーッと見つめてくる。
しばらく休んでいた後に声をかけてもらえるのは嬉しい。
ただ、近いな。
「もう大丈夫だよ」
「よかったな!」
「それより近い」
俺は高橋を少し遠ざけると、不服そうな顔をしていた。
「れんれんの方が近いじゃん」
確かに蓮との距離感の方が近い。
ただ、それを高橋にバレていたことに少し恥ずかしくなる。
「そう言えば、れんれんがずっと心配してたぞ」
「えっ?」
お互いに大丈夫か心配していたってことか。
「別に……普通だ」
全身に鳴り響くような低い声が頭上から聞こえてきた。
後ろを見上げると、蓮が後ろに立っていた。
「元気そうでよかった」
ホッとした顔をする蓮を見て、俺も自然と笑顔になる。
「蓮も元気そうでよかった」
「おいおい、お前たち入口にいたら邪魔だぞー」
次々と登校してきた人たちに俺たちは押し出される。
確かに教室の入り口にいたら邪魔だよな。
「湊がケガするだろ」
「出たみーちゃん星人!」
「うるさいな」
高橋は蓮に睨まれると、楽しそうに笑っていた。
どこか変わっているけど、高橋っていいやつだよな。
そんなことを思っていたが、その雰囲気に違和感を覚えた。
前の蓮ならクラスメイトからこんな扱いを受けることはなかった。
それだけ蓮を怖がっていた。
それに話しかけられることはあっても、返事をする程度で蓮も冗談を言うことはなかった。
「湊、大丈夫?」
「あっ、もう熱はないよ」
「……いや、ケガの心配で」
つい考えごとをしていて、聞かれていた内容を忘れていた。
「わかってるって」
俺はすぐに誤魔化す。
心配してくれるのは変わらない。
「黒瀬くん、おはよう」
「あっ、蓮くんおっはー!」
次々と登校してきた人たちに声をかけられる。
「おはよう」
蓮は短い返事をする。
相変わらず口数は少ないけど、ちゃんと相手を見て返事をしていた。
三日前までとは少し違う蓮がそこにはいた。
「変わったな」
思わず俺は小声で呟く。
一人でいた蓮が変わったことは嬉しいことだ。
だけど、胸の奥が少しだけざわついた。
なぜかはわからない。
ただ、今まで俺の隣にいた蓮が、少し遠くなったような気がした。
そんな気掛かりは昼休みになってもあった。
弁当を取り出そうとしていると、数人の女子が蓮のところへ集まってきた。
「黒瀬くん」
「ん?」
「今日も一緒にお昼食べない?」
その言葉に俺は固まった。
〝今日も〟ってことは、俺がいない間は女子たちと食べていたってことか。
やっぱりモテる男は違うな。
以前の蓮ならすぐに断るだろう。
そう思っていたが、蓮の視線は俺を見ていた。
「湊」
「ん?」
「一緒に食べてもいいか?」
一瞬、意味がわからなかった。
いや、何を言っているのかはわかっている。
俺に確認しているんだ。
今までずっと一緒に食べていたからな。
「いいよ」
目の前で聞かれたら、そう答えるしかなかった。
蓮が俺以外の誰かと昼を食べるのは良いことだしな。
だけど、俺が望んでいたことではあるけど、俺がここにいる意味があるのか。
そう思ってしまう。
「本当?」
女子たちの表情が明るくなる。
「やった!」
「黒瀬くんと話せる!」
嬉しそうな声が聞こえる。
その様子を見て、俺も笑顔を作る。
「よかったじゃん」
蓮にそう伝えるが、なぜか胸が苦しかった。
すぐに近くにある机が集められた。
「ここ座っていい?」
蓮の隣はすぐに埋まってしまった。
それにこの場にいるのは女子だけではない。
高橋やその周りの友達もいる。
今までなら考えられない光景だった。
その中心に蓮がいるんだからね。
「黒瀬って料理するんだろ?」
「ああ」
「すごいじゃん!」
「普通だ」
「すごいよ! 私何も作れないもん」
蓮は相変わらず淡々としている。
だけど、ちゃんと会話が続いていた。
俺は少し離れた場所で弁当を食べながら、その様子を見ていた。
……そうか。
蓮って俺とだから話せていたわけじゃなかったのか。
もちろん俺がいたから安心できた部分はあると思う。
でも、蓮は人見知りなだけで、誰かと話すことができたんだ。
喫茶店でも常連客に声をかけられたら、普通に話していたもんな。
俺が思っていたよりも、蓮はちゃんと人と関われる人だった。
ただ、きっかけがなかっただけだろう。
「みーちゃん」
突然、隣にいた高橋の声がした。
「ん?」
「食欲ないの?」
「え?」
弁当を見るとほとんど減っていなかった。
「あー……」
蓮のことを考えていたから、箸が止まってたみたい。
「まだ本調子じゃないみたい」
まだ病み上がりだからだろう。
そういうことにしておいた。
「そっか。無理すんなよ」
「心配してくれてありがとう」
俺は弁当箱を閉じて立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくる」
そう言って、教室を出た。
何も考えずに廊下を歩く。
別に気分が悪いわけじゃない。
なのにどうしてか、あの場所にはいられなかった。
「なんかしっくりこないな」
気づいたら校舎裏のベンチに座っていた。
こんなところに来るなんて、本調子じゃないのは確かだ。
校舎の隙間風が当たって少しずつ冷静になってくる。
「蓮、人気者になったな」
蓮の周りには友達ができていた。
嬉しいはずなのに、どこか喜べない。
前の蓮なら絶対に見られなかった光景だ。
だけど、モヤモヤするこの気持ちはなんだろう。
「俺がボッチになってるじゃん……」
自然と思っていた言葉が溢れ出る。
気づいた時には俺だけがボッチ同盟の会員だ。
胸の奥に残る感じたことのない感覚。
寂しいような。
どこかに置いていかれるような。
そんな気持ちが俺の心をグルグルと支配する。
「これからどうしようかな」
きっと蓮が高橋のグループに入ったら、六人になるから、ペアになると俺が一人になる。
別のやつとまたボッチ同盟でも――。
……いや、そんな子どもみたいな言い訳を聞いてくれるのは蓮ぐらいだろう。
それにもう他にもグループができているからな。
気づいたら一人が嫌でボッチ同盟を作ったのに、俺だけがボッチになっていた。
最初の日は熱でほとんど何もできなかった。
二日目には少し体が楽になったけど、まだ頭がぼんやりしていた。
三日目にはもう学校に行けそうな気がしていたけど、母さんに止められて結局休むことに。
そして四日目――。
「久しぶりの学校だな……」
制服に袖を通しながら少しだけ緊張する。
たった三日休んだだけなのに妙な感じがした。
今までなら学校に行くことは当たり前だった。
だけど、今回は違う。
蓮がどうしているのか。
そればかりが気になっていた。
俺を心配しているのか、蓮からの連絡はなかった。
俺がいない三日間。
蓮はちゃんと過ごせただろうか。
みんなが声をかけてくれるようにはなったが、急に一人になったことで困っていないかな。
休んでいた時はそんなことをベッドで寝ながら考えていた。
昇降口で靴を履き替え、教室へ入ろうとした瞬間、肩に重みがかかる。
「おっ、みーちゃん!」
相変わらず男子高校生にその呼び方をするのかと少し呆れてしまう。
「風邪治ったのか?」
高橋が俺の顔を覗き込んで、ジーッと見つめてくる。
しばらく休んでいた後に声をかけてもらえるのは嬉しい。
ただ、近いな。
「もう大丈夫だよ」
「よかったな!」
「それより近い」
俺は高橋を少し遠ざけると、不服そうな顔をしていた。
「れんれんの方が近いじゃん」
確かに蓮との距離感の方が近い。
ただ、それを高橋にバレていたことに少し恥ずかしくなる。
「そう言えば、れんれんがずっと心配してたぞ」
「えっ?」
お互いに大丈夫か心配していたってことか。
「別に……普通だ」
全身に鳴り響くような低い声が頭上から聞こえてきた。
後ろを見上げると、蓮が後ろに立っていた。
「元気そうでよかった」
ホッとした顔をする蓮を見て、俺も自然と笑顔になる。
「蓮も元気そうでよかった」
「おいおい、お前たち入口にいたら邪魔だぞー」
次々と登校してきた人たちに俺たちは押し出される。
確かに教室の入り口にいたら邪魔だよな。
「湊がケガするだろ」
「出たみーちゃん星人!」
「うるさいな」
高橋は蓮に睨まれると、楽しそうに笑っていた。
どこか変わっているけど、高橋っていいやつだよな。
そんなことを思っていたが、その雰囲気に違和感を覚えた。
前の蓮ならクラスメイトからこんな扱いを受けることはなかった。
それだけ蓮を怖がっていた。
それに話しかけられることはあっても、返事をする程度で蓮も冗談を言うことはなかった。
「湊、大丈夫?」
「あっ、もう熱はないよ」
「……いや、ケガの心配で」
つい考えごとをしていて、聞かれていた内容を忘れていた。
「わかってるって」
俺はすぐに誤魔化す。
心配してくれるのは変わらない。
「黒瀬くん、おはよう」
「あっ、蓮くんおっはー!」
次々と登校してきた人たちに声をかけられる。
「おはよう」
蓮は短い返事をする。
相変わらず口数は少ないけど、ちゃんと相手を見て返事をしていた。
三日前までとは少し違う蓮がそこにはいた。
「変わったな」
思わず俺は小声で呟く。
一人でいた蓮が変わったことは嬉しいことだ。
だけど、胸の奥が少しだけざわついた。
なぜかはわからない。
ただ、今まで俺の隣にいた蓮が、少し遠くなったような気がした。
そんな気掛かりは昼休みになってもあった。
弁当を取り出そうとしていると、数人の女子が蓮のところへ集まってきた。
「黒瀬くん」
「ん?」
「今日も一緒にお昼食べない?」
その言葉に俺は固まった。
〝今日も〟ってことは、俺がいない間は女子たちと食べていたってことか。
やっぱりモテる男は違うな。
以前の蓮ならすぐに断るだろう。
そう思っていたが、蓮の視線は俺を見ていた。
「湊」
「ん?」
「一緒に食べてもいいか?」
一瞬、意味がわからなかった。
いや、何を言っているのかはわかっている。
俺に確認しているんだ。
今までずっと一緒に食べていたからな。
「いいよ」
目の前で聞かれたら、そう答えるしかなかった。
蓮が俺以外の誰かと昼を食べるのは良いことだしな。
だけど、俺が望んでいたことではあるけど、俺がここにいる意味があるのか。
そう思ってしまう。
「本当?」
女子たちの表情が明るくなる。
「やった!」
「黒瀬くんと話せる!」
嬉しそうな声が聞こえる。
その様子を見て、俺も笑顔を作る。
「よかったじゃん」
蓮にそう伝えるが、なぜか胸が苦しかった。
すぐに近くにある机が集められた。
「ここ座っていい?」
蓮の隣はすぐに埋まってしまった。
それにこの場にいるのは女子だけではない。
高橋やその周りの友達もいる。
今までなら考えられない光景だった。
その中心に蓮がいるんだからね。
「黒瀬って料理するんだろ?」
「ああ」
「すごいじゃん!」
「普通だ」
「すごいよ! 私何も作れないもん」
蓮は相変わらず淡々としている。
だけど、ちゃんと会話が続いていた。
俺は少し離れた場所で弁当を食べながら、その様子を見ていた。
……そうか。
蓮って俺とだから話せていたわけじゃなかったのか。
もちろん俺がいたから安心できた部分はあると思う。
でも、蓮は人見知りなだけで、誰かと話すことができたんだ。
喫茶店でも常連客に声をかけられたら、普通に話していたもんな。
俺が思っていたよりも、蓮はちゃんと人と関われる人だった。
ただ、きっかけがなかっただけだろう。
「みーちゃん」
突然、隣にいた高橋の声がした。
「ん?」
「食欲ないの?」
「え?」
弁当を見るとほとんど減っていなかった。
「あー……」
蓮のことを考えていたから、箸が止まってたみたい。
「まだ本調子じゃないみたい」
まだ病み上がりだからだろう。
そういうことにしておいた。
「そっか。無理すんなよ」
「心配してくれてありがとう」
俺は弁当箱を閉じて立ち上がる。
「ちょっとトイレ行ってくる」
そう言って、教室を出た。
何も考えずに廊下を歩く。
別に気分が悪いわけじゃない。
なのにどうしてか、あの場所にはいられなかった。
「なんかしっくりこないな」
気づいたら校舎裏のベンチに座っていた。
こんなところに来るなんて、本調子じゃないのは確かだ。
校舎の隙間風が当たって少しずつ冷静になってくる。
「蓮、人気者になったな」
蓮の周りには友達ができていた。
嬉しいはずなのに、どこか喜べない。
前の蓮なら絶対に見られなかった光景だ。
だけど、モヤモヤするこの気持ちはなんだろう。
「俺がボッチになってるじゃん……」
自然と思っていた言葉が溢れ出る。
気づいた時には俺だけがボッチ同盟の会員だ。
胸の奥に残る感じたことのない感覚。
寂しいような。
どこかに置いていかれるような。
そんな気持ちが俺の心をグルグルと支配する。
「これからどうしようかな」
きっと蓮が高橋のグループに入ったら、六人になるから、ペアになると俺が一人になる。
別のやつとまたボッチ同盟でも――。
……いや、そんな子どもみたいな言い訳を聞いてくれるのは蓮ぐらいだろう。
それにもう他にもグループができているからな。
気づいたら一人が嫌でボッチ同盟を作ったのに、俺だけがボッチになっていた。



