蓮がアルバイトを始めてから数週間が経つと、さらに教室の空気が変わった。
「黒瀬くん、おはよう!」
「蓮くん、おはよう!」
「おはよう……」
今までなら挨拶すらされなかった蓮に、声をかける人が増えていた。
最初は見た目が変わった影響だったけど、次第にそれが当たり前になりつつある。
まあ、そのほとんどが女子ばかりなんだけどね。
「おい、俺には挨拶ないのかよ!」
「高橋もおはよう」
「高橋もってなんだよ!」
相変わらず高橋は女子を蓮に取られてちょっかいをかけてくる。
まあ、そのおかげで蓮も女子相手に困らずに済むんだけどね。
高橋が女子の相手をしてくれるから、蓮は静かに席に座っていた。
「蓮、おはよう」
「湊!」
俺が挨拶をすると、すぐに気づいて駆け寄ってきた。
そのまま俺の後ろに来ると、ひっそりと隠れようとする。
やっぱり囲まれて困っていたのだろう。
「そういえば、黒川くんは黒瀬くんが喫茶店でアルバイトしてるのは知ってる?」
「えっ?」
「友達が見たって言ってたよ」
その言葉を聞いて俺と蓮はお互いに顔を見合わせる。
蓮がアルバイトしていることを知っているのは俺ぐらいだ。
偶然俺たちが働いているところを見た人がいるんだろう。
「喫茶店にイケメンが働いているって話題になってて、見に行ったら黒瀬くんだったって」
まさか偶然というよりは、噂が広がって蓮が働いていることを知ったらしい。
女子の情報網は侮れないな。
「そうか」
そんな中、蓮は自分のことなのにどこか他人事みたいな反応だった。
まあ、蓮っていつもこんな感じだからな。
「俺のアルバイト先を教えようか?」
「それは遠慮しておく」
「なんでだよ!」
高橋の言葉に女子たちは笑う。
「だって、黒瀬くんは背高いし、雰囲気あるし。モデル体型だから、見てても楽しいじゃん」
「高橋とは天と地ぐらいの差だからね」
高橋は俺よりも背が高いから、そこまで見た目も悪くないと思うけどな。
そんなことを思っていると、チラッと表情が曇っている蓮がいた。
やっぱり今も見た目のことについて言われるのは好きではないようだ。
「俺だってイケメンだぞ!」
「それ本気で言ってる?」
周りから笑い声が上がる。
「黒瀬くんも何か言ってやってよ」
「高橋すぐに調子に乗るんだから」
突然、話を振られた蓮は俺の方を見る。
あー、あの眉間にシワを寄せている感じは、どういう返答をすればいいのか困っているのだろう。
アルバイト先でも、よく同じような顔をしているからな。
「今度、その喫茶店行ってみようかな」
「私も気になる」
「黒瀬くん、アルバイトにはいついるの?」
「湊、どうしよう……」
質問攻めされて、蓮は耳元でボソリと呟いた。
ちょっと前までは怖い、近寄りづらい、何を考えているかわからないって思われていた。
だけど、今は少しずつだけど、みんなが蓮のことを知ろうとしている。
でも、当の本人は急な変化についていけてないようだ。
ただ、蓮のためにも俺が答えるわけにはいかないしな……。
「蓮、頑張れ」
俺は小さく蓮に声をかけた。
「土日だけだよ」
「じゃあ、私たち今度行くね!」
そう言って、女子たちは話が済んだのか蓮の席から離れて行った。
「みんなに知ってもらえてよかったな」
少しでも蓮に興味を持ってもらえてよかった。
でも、心のどこかがモヤモヤとする。
そのモヤモヤは授業の休み時間になる度に顔を現す。
「黒瀬くん、今日のお昼一緒に食べない?」
「えっ?」
休み時間になる度に女子が蓮に声をかけてくる。
少し前なら俺も一緒に喜んでいただろう。
俺も久しぶりに一組のやつらと食べられるって思うからな。
だけど、今の俺はどこか素直に喜べなかった。
「いつも黒川くんと食べてるよね?」
「うん」
俺はモヤモヤする気持ちを抱えたまま、蓮の返事を待った。
「じゃあ、たまには――」
「ごめん」
蓮はすぐに断った。
あまりにも迷いのない返事だったから、俺の方が驚く。
「昼は湊と食べるって決めてるから」
女子たちが少しだけ固まる。
でも蓮は気にした様子もなく、自分の机を見る。
「それに昼休みって休みだし」
「えっ?」
蓮らしい答えに思わず笑いそうになる。
きっと俺以外といたら疲れるのだろう。
蓮なりに集まってほしくないと遠回しに伝えていた。
「そっ……それなら仕方ないね」
「お前たち振られてやんのー!」
「高橋!」
逃げる高橋に女子たちは声を上げて去っていく。
やっと人がいなくなったことで、俺も心が落ちついてくる。
「蓮」
「ん?」
「人気者って大変そうだね」
そう言うと、蓮は少し考えてから首を横に振った。
「別に人気者になりたいわけじゃない」
蓮は俺の方をジーッと見る。
「湊と一緒にいられればそれでいい」
その言葉になぜか胸の奥が少し熱くなった。
周りから見れば、今の蓮は変わったのかもしれない。
怖がられていた大男が、女子に囲まれるようになったからね。
でも、ボッチ同盟の俺だけが本当の蓮を知っている。
小さなことだけど、蓮の特別になれたんだと少しだけ嬉しくなる俺がいた。
「黒瀬くん、おはよう!」
「蓮くん、おはよう!」
「おはよう……」
今までなら挨拶すらされなかった蓮に、声をかける人が増えていた。
最初は見た目が変わった影響だったけど、次第にそれが当たり前になりつつある。
まあ、そのほとんどが女子ばかりなんだけどね。
「おい、俺には挨拶ないのかよ!」
「高橋もおはよう」
「高橋もってなんだよ!」
相変わらず高橋は女子を蓮に取られてちょっかいをかけてくる。
まあ、そのおかげで蓮も女子相手に困らずに済むんだけどね。
高橋が女子の相手をしてくれるから、蓮は静かに席に座っていた。
「蓮、おはよう」
「湊!」
俺が挨拶をすると、すぐに気づいて駆け寄ってきた。
そのまま俺の後ろに来ると、ひっそりと隠れようとする。
やっぱり囲まれて困っていたのだろう。
「そういえば、黒川くんは黒瀬くんが喫茶店でアルバイトしてるのは知ってる?」
「えっ?」
「友達が見たって言ってたよ」
その言葉を聞いて俺と蓮はお互いに顔を見合わせる。
蓮がアルバイトしていることを知っているのは俺ぐらいだ。
偶然俺たちが働いているところを見た人がいるんだろう。
「喫茶店にイケメンが働いているって話題になってて、見に行ったら黒瀬くんだったって」
まさか偶然というよりは、噂が広がって蓮が働いていることを知ったらしい。
女子の情報網は侮れないな。
「そうか」
そんな中、蓮は自分のことなのにどこか他人事みたいな反応だった。
まあ、蓮っていつもこんな感じだからな。
「俺のアルバイト先を教えようか?」
「それは遠慮しておく」
「なんでだよ!」
高橋の言葉に女子たちは笑う。
「だって、黒瀬くんは背高いし、雰囲気あるし。モデル体型だから、見てても楽しいじゃん」
「高橋とは天と地ぐらいの差だからね」
高橋は俺よりも背が高いから、そこまで見た目も悪くないと思うけどな。
そんなことを思っていると、チラッと表情が曇っている蓮がいた。
やっぱり今も見た目のことについて言われるのは好きではないようだ。
「俺だってイケメンだぞ!」
「それ本気で言ってる?」
周りから笑い声が上がる。
「黒瀬くんも何か言ってやってよ」
「高橋すぐに調子に乗るんだから」
突然、話を振られた蓮は俺の方を見る。
あー、あの眉間にシワを寄せている感じは、どういう返答をすればいいのか困っているのだろう。
アルバイト先でも、よく同じような顔をしているからな。
「今度、その喫茶店行ってみようかな」
「私も気になる」
「黒瀬くん、アルバイトにはいついるの?」
「湊、どうしよう……」
質問攻めされて、蓮は耳元でボソリと呟いた。
ちょっと前までは怖い、近寄りづらい、何を考えているかわからないって思われていた。
だけど、今は少しずつだけど、みんなが蓮のことを知ろうとしている。
でも、当の本人は急な変化についていけてないようだ。
ただ、蓮のためにも俺が答えるわけにはいかないしな……。
「蓮、頑張れ」
俺は小さく蓮に声をかけた。
「土日だけだよ」
「じゃあ、私たち今度行くね!」
そう言って、女子たちは話が済んだのか蓮の席から離れて行った。
「みんなに知ってもらえてよかったな」
少しでも蓮に興味を持ってもらえてよかった。
でも、心のどこかがモヤモヤとする。
そのモヤモヤは授業の休み時間になる度に顔を現す。
「黒瀬くん、今日のお昼一緒に食べない?」
「えっ?」
休み時間になる度に女子が蓮に声をかけてくる。
少し前なら俺も一緒に喜んでいただろう。
俺も久しぶりに一組のやつらと食べられるって思うからな。
だけど、今の俺はどこか素直に喜べなかった。
「いつも黒川くんと食べてるよね?」
「うん」
俺はモヤモヤする気持ちを抱えたまま、蓮の返事を待った。
「じゃあ、たまには――」
「ごめん」
蓮はすぐに断った。
あまりにも迷いのない返事だったから、俺の方が驚く。
「昼は湊と食べるって決めてるから」
女子たちが少しだけ固まる。
でも蓮は気にした様子もなく、自分の机を見る。
「それに昼休みって休みだし」
「えっ?」
蓮らしい答えに思わず笑いそうになる。
きっと俺以外といたら疲れるのだろう。
蓮なりに集まってほしくないと遠回しに伝えていた。
「そっ……それなら仕方ないね」
「お前たち振られてやんのー!」
「高橋!」
逃げる高橋に女子たちは声を上げて去っていく。
やっと人がいなくなったことで、俺も心が落ちついてくる。
「蓮」
「ん?」
「人気者って大変そうだね」
そう言うと、蓮は少し考えてから首を横に振った。
「別に人気者になりたいわけじゃない」
蓮は俺の方をジーッと見る。
「湊と一緒にいられればそれでいい」
その言葉になぜか胸の奥が少し熱くなった。
周りから見れば、今の蓮は変わったのかもしれない。
怖がられていた大男が、女子に囲まれるようになったからね。
でも、ボッチ同盟の俺だけが本当の蓮を知っている。
小さなことだけど、蓮の特別になれたんだと少しだけ嬉しくなる俺がいた。



