「はぁー、疲れたな」
「湊、はしゃいでいたもんな」
ゲームセンターで遊び尽くした俺たちはショッピングモールを出て、駅に向かって歩いていく。
同じ歩幅で隣を歩き、カバンについた熊のぬいぐるみがぶらぶらと大きく揺れる。
「蓮もはしゃいでいたじゃん!」
「そんなことない」
「嘘だ! あんなに楽しそうに笑っている蓮見たことないぞ」
目が見えているから楽しそうな姿がわかりやすくなっただけかもしれない。
だけど、蓮と友達になって、こんなに楽しそうにはしゃぐ姿を見たことがない。
「俺は蓮と初めて遊んだけど楽しかったよ」
「俺も」
少し恥ずかしそうに答える蓮についクスッと笑ってしまう。
自分から楽しかったって言えないほど蓮は不器用なんだな。
「またゲーセンに行こうな」
「湊が行きたいなら」
「あー、そうやって俺だけ行きたいみたいな」
「いや、俺も行きたい」
「正直でよろしい」
俺は手を伸ばして蓮の背中を強く叩く。
やっぱり友達になったからには、やりたいことを素直に聞いてあげたいからね。
――カラン!
「ありがとうございました」
喫茶店の前を通り過ぎようとしたら、ちょうどタイミングよく入り口の扉が開いた。
「お疲れ様です」
俺はぺこりと頭を下げる。
そこにはこの間一緒に働いたパートのおばちゃんがいた。
「あっ、湊くん……」
おばちゃんの視線はやはり蓮の方に向いていた。
「マスタアアアアア! 湊くんがイケメンを連れ歩いてますよ!」
「今すぐ捕獲してこい!」
喫茶店の中から騒がしい声が聞こえてくる。
「今暇かな?」
おばちゃんはすぐに俺と蓮の手を掴むと、返事をする前に店の中に引き込んでいく。
男子高校生を強引に引っ張る力はどこから出ているのだろうか。
蓮も驚いて言葉すら出ていない。
「マスター、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」
マスターは俺に話しかけているのに、視線は蓮の方に向いていた。
おばちゃんなんて蓮の顔をジーッと見つめるほどだ。
「湊、助けて」
蓮は怖くなったのか俺の後ろに隠れた。
いや……明らかに無理があるぞ。
どう頑張っても体格的に隠れられてないからな。
「この間連れてきた友達か?」
「あっ、マスターはわかったんですね」
「ああ、黒川くんを見る目が優しいやつって覚えているからな」
どうやらマスターは蓮のことを優しい目で俺を見る友人と認識しているようだ。
普通なら身長が高い友人とかならわかるが……。
「それにしても髪の毛を切ったら、えらいイケメンになったな」
「まさかこの間の友達なの!?」
おばちゃんも今頃になって蓮が誰なのか気づいたようだ。
「もお、それなら早く言ってよ!」
誰かわかったからか蓮のことを遠慮なくバシバシと叩いている。
俺もバイト初日にこの距離感に驚いたんだよな。
町の喫茶店だから、気さくな店員を集めているのだろう。
「ちょうどよかった。君、ここでアルバイトしないか?」
「へっ……」
マスターの言葉に俺は驚いた。
蓮に接客業ができるような気がしない。
俺の中でお客さんに怯えられている姿が想像できる。
いや、話しかけられるから蓮の方が怯えるかもしれないな。
「いや、俺には……」
「ほら、土日って人が足りないのよ」
「それにショッピングモールの帰り道に寄る奴らも多いからさ」
蓮も無理だと思ったのか断ろうとしているが、マスターとおばちゃんはそうでもなかった。
必死に蓮が必要だと訴えかけている。
「湊……」
蓮から助けて欲しそうな目で訴えられる。
俺は土日しか働いてないが、いつもバタバタとしているのは確かだ。
この間も人が足りないと言ってたし。
「イケメンがいたら客が増えるかもしれないぞ!」
マスターは蓮を客寄せパンダにするつもりだな。
確かに熊とパンダは同じクマ科ではあるが、蓮には難しそうな気がする。
ただ、それよりも気になることがある。
「俺はイケメンじゃないってことですね」
「いや、まあ……彼に比べたらね……」
「大丈夫。湊くんもイケメンだから」
冗談で聞いてみたけど、蓮の時とは反応が違っていた。
まあ、蓮と比べたらイケメンではないからな。
身長も低めだし。
「湊はかっこいいよ」
「おっ……おう」
俺は後ろに立っている蓮を見上げると、真面目な顔をしていた。
きっと冗談で言っているわけではない気がする。
さっきまで蓮のダサいところを探していた俺のことをかっこいいと思っていたとは……。
俺がダサい男だったな。
それに蓮に直接言われると、色んな意味で恥ずかしくなる。
「蓮も嫌なら断ってもいいからね」
「いや、湊と一緒なら――」
「よし、黒川くんと同じ出勤日ならいいってことだな! 無地のシャツと黒いズボンなら何でもいいからな」
面接や履歴書を見るわけでもなく、勝手に話が進んでいく。
蓮はどうしたらいいのかわからずあたふたしているからな。
まるで迷子になっている熊だ。
「えっ、そんな簡単に決めていいんですか?」
「この店のマスターは俺だからな。それに黒川くんの友達なら悪い子じゃないはず」
「そうよ。湊くんは常連客の孫みたいなものだからね」
どうやら俺は常連客の孫ポジションらしい。
たまに一緒にコーヒーを飲んでいけと席に座らされるのはそういうことか。
まあ、コーヒーは飲めないんだけどね。
「えーっと……蓮くんだったかな? ここで働くのは決定でいいかな?」
マスターはニヤニヤとしながら、蓮に確認をする。
「湊と一緒なら……できるかもしれないです」
「よし、採用だ!」
俺が働く日に一緒に働くという条件付きで、蓮も喫茶店で働くことが決まった。
こんな簡単にアルバイトって決まっていいものなのか……。
「じゃあ、服の準備ができてから働くとして、最短は今週の土日からだけど――」
「その日から働きます」
思ったよりも蓮もやる気満々のようだ。
「そうかそうか。じゃあ、時間も黒川くんと同じにしておくね」
そう言って、マスターは嬉しそうに喫茶店の片付けに戻った。
話が終わった俺たちも喫茶店を出て、駅に向かって歩いていく。
「俺のせいでごめんね」
まさか喫茶店の目の前を通っただけなのに、蓮が同じバイト先で働くことになるとは……。
一緒にいなければ、声をかけられることもなかったはずだ。
あれだけ詰められたら断りにくいのもあるから、少し罪悪感がある。
「俺は湊と一緒にバイトができて嬉しいよ」
このままだとずっと俺といる日が増えそうだが、そこは気にならないのかな?
そう思って、蓮を見上げるが当の本人は嬉しそうだ。
「両親に相談とかはしなくてもよかった?」
「大丈夫。湊が一緒だし」
「んー、それはそれで心配だな」
出会ってまだそんなに経ってないのに、俺の信頼度はかなり高い。
今度漫画を読みに行った時は、蓮の両親に俺からも説明しておこう。
「湊、はしゃいでいたもんな」
ゲームセンターで遊び尽くした俺たちはショッピングモールを出て、駅に向かって歩いていく。
同じ歩幅で隣を歩き、カバンについた熊のぬいぐるみがぶらぶらと大きく揺れる。
「蓮もはしゃいでいたじゃん!」
「そんなことない」
「嘘だ! あんなに楽しそうに笑っている蓮見たことないぞ」
目が見えているから楽しそうな姿がわかりやすくなっただけかもしれない。
だけど、蓮と友達になって、こんなに楽しそうにはしゃぐ姿を見たことがない。
「俺は蓮と初めて遊んだけど楽しかったよ」
「俺も」
少し恥ずかしそうに答える蓮についクスッと笑ってしまう。
自分から楽しかったって言えないほど蓮は不器用なんだな。
「またゲーセンに行こうな」
「湊が行きたいなら」
「あー、そうやって俺だけ行きたいみたいな」
「いや、俺も行きたい」
「正直でよろしい」
俺は手を伸ばして蓮の背中を強く叩く。
やっぱり友達になったからには、やりたいことを素直に聞いてあげたいからね。
――カラン!
「ありがとうございました」
喫茶店の前を通り過ぎようとしたら、ちょうどタイミングよく入り口の扉が開いた。
「お疲れ様です」
俺はぺこりと頭を下げる。
そこにはこの間一緒に働いたパートのおばちゃんがいた。
「あっ、湊くん……」
おばちゃんの視線はやはり蓮の方に向いていた。
「マスタアアアアア! 湊くんがイケメンを連れ歩いてますよ!」
「今すぐ捕獲してこい!」
喫茶店の中から騒がしい声が聞こえてくる。
「今暇かな?」
おばちゃんはすぐに俺と蓮の手を掴むと、返事をする前に店の中に引き込んでいく。
男子高校生を強引に引っ張る力はどこから出ているのだろうか。
蓮も驚いて言葉すら出ていない。
「マスター、お疲れ様です」
「ああ、お疲れ」
マスターは俺に話しかけているのに、視線は蓮の方に向いていた。
おばちゃんなんて蓮の顔をジーッと見つめるほどだ。
「湊、助けて」
蓮は怖くなったのか俺の後ろに隠れた。
いや……明らかに無理があるぞ。
どう頑張っても体格的に隠れられてないからな。
「この間連れてきた友達か?」
「あっ、マスターはわかったんですね」
「ああ、黒川くんを見る目が優しいやつって覚えているからな」
どうやらマスターは蓮のことを優しい目で俺を見る友人と認識しているようだ。
普通なら身長が高い友人とかならわかるが……。
「それにしても髪の毛を切ったら、えらいイケメンになったな」
「まさかこの間の友達なの!?」
おばちゃんも今頃になって蓮が誰なのか気づいたようだ。
「もお、それなら早く言ってよ!」
誰かわかったからか蓮のことを遠慮なくバシバシと叩いている。
俺もバイト初日にこの距離感に驚いたんだよな。
町の喫茶店だから、気さくな店員を集めているのだろう。
「ちょうどよかった。君、ここでアルバイトしないか?」
「へっ……」
マスターの言葉に俺は驚いた。
蓮に接客業ができるような気がしない。
俺の中でお客さんに怯えられている姿が想像できる。
いや、話しかけられるから蓮の方が怯えるかもしれないな。
「いや、俺には……」
「ほら、土日って人が足りないのよ」
「それにショッピングモールの帰り道に寄る奴らも多いからさ」
蓮も無理だと思ったのか断ろうとしているが、マスターとおばちゃんはそうでもなかった。
必死に蓮が必要だと訴えかけている。
「湊……」
蓮から助けて欲しそうな目で訴えられる。
俺は土日しか働いてないが、いつもバタバタとしているのは確かだ。
この間も人が足りないと言ってたし。
「イケメンがいたら客が増えるかもしれないぞ!」
マスターは蓮を客寄せパンダにするつもりだな。
確かに熊とパンダは同じクマ科ではあるが、蓮には難しそうな気がする。
ただ、それよりも気になることがある。
「俺はイケメンじゃないってことですね」
「いや、まあ……彼に比べたらね……」
「大丈夫。湊くんもイケメンだから」
冗談で聞いてみたけど、蓮の時とは反応が違っていた。
まあ、蓮と比べたらイケメンではないからな。
身長も低めだし。
「湊はかっこいいよ」
「おっ……おう」
俺は後ろに立っている蓮を見上げると、真面目な顔をしていた。
きっと冗談で言っているわけではない気がする。
さっきまで蓮のダサいところを探していた俺のことをかっこいいと思っていたとは……。
俺がダサい男だったな。
それに蓮に直接言われると、色んな意味で恥ずかしくなる。
「蓮も嫌なら断ってもいいからね」
「いや、湊と一緒なら――」
「よし、黒川くんと同じ出勤日ならいいってことだな! 無地のシャツと黒いズボンなら何でもいいからな」
面接や履歴書を見るわけでもなく、勝手に話が進んでいく。
蓮はどうしたらいいのかわからずあたふたしているからな。
まるで迷子になっている熊だ。
「えっ、そんな簡単に決めていいんですか?」
「この店のマスターは俺だからな。それに黒川くんの友達なら悪い子じゃないはず」
「そうよ。湊くんは常連客の孫みたいなものだからね」
どうやら俺は常連客の孫ポジションらしい。
たまに一緒にコーヒーを飲んでいけと席に座らされるのはそういうことか。
まあ、コーヒーは飲めないんだけどね。
「えーっと……蓮くんだったかな? ここで働くのは決定でいいかな?」
マスターはニヤニヤとしながら、蓮に確認をする。
「湊と一緒なら……できるかもしれないです」
「よし、採用だ!」
俺が働く日に一緒に働くという条件付きで、蓮も喫茶店で働くことが決まった。
こんな簡単にアルバイトって決まっていいものなのか……。
「じゃあ、服の準備ができてから働くとして、最短は今週の土日からだけど――」
「その日から働きます」
思ったよりも蓮もやる気満々のようだ。
「そうかそうか。じゃあ、時間も黒川くんと同じにしておくね」
そう言って、マスターは嬉しそうに喫茶店の片付けに戻った。
話が終わった俺たちも喫茶店を出て、駅に向かって歩いていく。
「俺のせいでごめんね」
まさか喫茶店の目の前を通っただけなのに、蓮が同じバイト先で働くことになるとは……。
一緒にいなければ、声をかけられることもなかったはずだ。
あれだけ詰められたら断りにくいのもあるから、少し罪悪感がある。
「俺は湊と一緒にバイトができて嬉しいよ」
このままだとずっと俺といる日が増えそうだが、そこは気にならないのかな?
そう思って、蓮を見上げるが当の本人は嬉しそうだ。
「両親に相談とかはしなくてもよかった?」
「大丈夫。湊が一緒だし」
「んー、それはそれで心配だな」
出会ってまだそんなに経ってないのに、俺の信頼度はかなり高い。
今度漫画を読みに行った時は、蓮の両親に俺からも説明しておこう。



