「湊、行くよ」
お昼休みになり弁当を取り出していると、蓮は俺の弁当を持って教室から出ていく。
何があったのかはわからないが、弁当を取られたら蓮に付いていくしかない。
「おい、速いって!」
いつもなら歩く速さを合わせてくれるのに、今日に限ってやけに速い。
勢いよく階段を駆け上がりどこに行くのだろう。
「はぁ……はぁ……どこに――」
最上階まで行くと、急に手を引かれそのまま俺の体は倒れていく。
「蓮!?」
「シーッ!」
俺は蓮の上に倒れていた。
大きな蓮の手が俺の口を塞ぎ、話さないようにと目で訴えてくる。
「誰も付いてきてない?」
俺が頷くと、蓮は安心したのか手を放し、大きく息を吐いた。
「急に走ってどうしたんだよ?」
「気持ち悪い」
「えっ、吐くのか!?」
俺は咄嗟に両手を合わせて、皿をつくる。
だが、蓮はキョトンとした顔で俺を見つめていた。
「気持ち悪いって……」
「いや……みんなが急に変わったから」
蓮の言葉に俺はゆっくりと手を下げた。
髪の毛を切っただけで、急に話しかけられたらそう思っても仕方ない。
それに明らかに蓮を狙っているような素振りを見せる女子もいるから戸惑いを隠せないのだろう。
「それだけ蓮がかっこいいってことじゃないか?」
「別にそんなことはどうでもいい。湊が喜んでくれると思って切っただけだし」
蓮の言葉に胸が締め付けられる。
本当に俺が言ったから切ったのか。
「みんなに邪魔されるぐらいなら、そのままでもよかったな……」
「そんなに邪魔されたくなかったの?」
少し嬉しくなり、ニヤニヤしながら聞くと、蓮は大きく頷いた。
「えっ……」
まさか本当に頷くとは思わなかった。
「まさか俺以外に友達は――」
「湊だけでいい」
蓮に友達ができるのは良いことだと思っていた。
だけど、蓮はそんな風には考えてはいなかった。
「湊が友達を作れっていうなら頑張るけど……」
「まあ、そこまで無理して友達は作るもんでもないからな」
「うん。ボッチ同盟があるからいい」
ボッチを回避するために、ボッチ同盟を作ったけど、まさか自分の言葉が突き刺さるとは……。
でも、蓮はそんなボッチ同盟のことを気に入っていた。
蓮の純粋な好意がどこか恥ずかしく感じる。
それに今の体勢も拍車をかけているのだろう。
「ずっと上に乗って重かったよね」
俺は蓮に引っ張られて、そのまま上に乗っていた。
筋肉は思ったよりも硬くなく、衝撃吸収もしっかりしているようだ。
「いや、大丈夫」
「さすがにずっとこのままいるのも悪いからな」
俺はすぐに起き上がると、蓮の横に座り弁当を開ける。
「別によかったのに」
俺の気持ちとは裏腹に蓮はどこか寂しげに座っていた。
「ほら、早く食べないとお昼休みが終わるぞ」
「うん」
弁当を一緒に持ってきているから、ここで食べるつもりだったのだろう。
でも、中庭のベンチとかの方が日当たりもいいだろうに。
「食べる場所はここでよかった?」
「ここなら誰も邪魔しないと思って」
「確かに一番上まで来る人はいないだろうね」
屋上には行けないため、ここまで来る人はいない。
それだけ蓮にとっては、一緒にお昼を食べる時間が大事だったようだ。
「……蓮」
「ん?」
「卵焼き増えてないか?」
蓮の弁当を見て、俺は少し驚いた。
弁当箱の端には、綺麗に並べられた卵焼きがいくつも入っている。
前に見た時は二つか三つぐらいだったのに、明らかに卵焼きの数が多い。
まるでそのまま卵焼きを入れたような見た目だ。
「卵焼きが好きなのか?」
そう聞くと、蓮は少し考えるように首を傾げた。
「好きだけど……」
「だけど?」
「この間、湊が美味しいって言ったから」
一瞬、意味を理解するのに時間がかかった。
「俺が?」
「うん」
「それで増やしたのか?」
「もっと食べるかなって」
当たり前のように言う蓮に思わず言葉が詰まる。
蓮は本当にこういうところがずるい。
普通なら「好きだから作った」で終わる話なのに、蓮の場合はいつも理由の中心に俺がいる。
「わざわざ作ってもらったのか?」
そう言いながら、俺は卵焼きを一つ箸で取ろうとする。
「違う」
「えっ?」
「弁当は自分で作ってる」
思わず手が止まった。
まさか自分で作っているとは思わないだろう。
俺より頭一つ分大きくて、黙っていると近寄りがたい雰囲気すらある男だ。
それに高校生で家事をやっている人も少ないはず。
「蓮って料理できるのか?」
「並にできる」
蓮のことだから謙遜しているのだろう。
俺は卵焼きを口に入れる。
「やっぱり美味しいな」
少しだけ焦げ目があるけど、甘めの味付けで味もしっかり美味しい。
「蓮って器用だね」
「母親しかいないからね」
蓮は特に気にした様子もなく答えた。
でも、その一言が少しだけ引っかかった。
きっと俺が知らないところで、蓮は色々なことをしてきたのだろう。
「昔から作ってるのか?」
「中学生になった時から」
「中学か……」
俺なんていまだに料理をしたことがない。
むしろ、母親が作った料理におかずが少ないと文句を言ってしまうほどだ。
自分のために毎日弁当を作るなんて考えたことすらない。
「やっぱりすごいな」
「別に」
「いや、すごいだろ」
蓮は少し困ったように視線を逸らした。
顔がどこか赤くなっているから、褒められることに慣れていないのだろう。
「じゃあ今度、俺でも簡単に作れる料理教えてよ」
「え?」
「ボッチ同盟の特典だろ?」
俺はニヤリと笑う。
せっかく仲良くなったんだ。
喫茶店で働いているのに、料理の一つや二つできないわけにはいかない。
「やっぱり嫌だった?」
「ううん。楽しみ」
隣から聞こえたのは小さな返事だった。
だけど、その顔は明らかに嬉しそう。
普段、何を考えているかわかりづらいけど、俺といる時だけは少しだけ分かりやすい気がする。
その姿が俺も一緒にいて心地良い。
「何を教えてもらおうかな」
「湊の作った卵焼きが食べたい」
真剣な顔で言われて、思わず笑ってしまう。
「いやいや、包丁も持ったことないやつが卵焼きって難易度高いだろ」
「湊が作るやつが食べたい」
「いや、せめてスクランブルエッグに……」
「卵焼き」
「他は?」
「卵焼きじゃないと教えない」
こういう時だけ意地になってるのか、何を言っても卵焼きしか答えない。
体は大きいのに子どもみたいだな。
でも、こうやって少しずつ、蓮のことを知っていくのが俺もどこか嬉しかった。
お昼休みになり弁当を取り出していると、蓮は俺の弁当を持って教室から出ていく。
何があったのかはわからないが、弁当を取られたら蓮に付いていくしかない。
「おい、速いって!」
いつもなら歩く速さを合わせてくれるのに、今日に限ってやけに速い。
勢いよく階段を駆け上がりどこに行くのだろう。
「はぁ……はぁ……どこに――」
最上階まで行くと、急に手を引かれそのまま俺の体は倒れていく。
「蓮!?」
「シーッ!」
俺は蓮の上に倒れていた。
大きな蓮の手が俺の口を塞ぎ、話さないようにと目で訴えてくる。
「誰も付いてきてない?」
俺が頷くと、蓮は安心したのか手を放し、大きく息を吐いた。
「急に走ってどうしたんだよ?」
「気持ち悪い」
「えっ、吐くのか!?」
俺は咄嗟に両手を合わせて、皿をつくる。
だが、蓮はキョトンとした顔で俺を見つめていた。
「気持ち悪いって……」
「いや……みんなが急に変わったから」
蓮の言葉に俺はゆっくりと手を下げた。
髪の毛を切っただけで、急に話しかけられたらそう思っても仕方ない。
それに明らかに蓮を狙っているような素振りを見せる女子もいるから戸惑いを隠せないのだろう。
「それだけ蓮がかっこいいってことじゃないか?」
「別にそんなことはどうでもいい。湊が喜んでくれると思って切っただけだし」
蓮の言葉に胸が締め付けられる。
本当に俺が言ったから切ったのか。
「みんなに邪魔されるぐらいなら、そのままでもよかったな……」
「そんなに邪魔されたくなかったの?」
少し嬉しくなり、ニヤニヤしながら聞くと、蓮は大きく頷いた。
「えっ……」
まさか本当に頷くとは思わなかった。
「まさか俺以外に友達は――」
「湊だけでいい」
蓮に友達ができるのは良いことだと思っていた。
だけど、蓮はそんな風には考えてはいなかった。
「湊が友達を作れっていうなら頑張るけど……」
「まあ、そこまで無理して友達は作るもんでもないからな」
「うん。ボッチ同盟があるからいい」
ボッチを回避するために、ボッチ同盟を作ったけど、まさか自分の言葉が突き刺さるとは……。
でも、蓮はそんなボッチ同盟のことを気に入っていた。
蓮の純粋な好意がどこか恥ずかしく感じる。
それに今の体勢も拍車をかけているのだろう。
「ずっと上に乗って重かったよね」
俺は蓮に引っ張られて、そのまま上に乗っていた。
筋肉は思ったよりも硬くなく、衝撃吸収もしっかりしているようだ。
「いや、大丈夫」
「さすがにずっとこのままいるのも悪いからな」
俺はすぐに起き上がると、蓮の横に座り弁当を開ける。
「別によかったのに」
俺の気持ちとは裏腹に蓮はどこか寂しげに座っていた。
「ほら、早く食べないとお昼休みが終わるぞ」
「うん」
弁当を一緒に持ってきているから、ここで食べるつもりだったのだろう。
でも、中庭のベンチとかの方が日当たりもいいだろうに。
「食べる場所はここでよかった?」
「ここなら誰も邪魔しないと思って」
「確かに一番上まで来る人はいないだろうね」
屋上には行けないため、ここまで来る人はいない。
それだけ蓮にとっては、一緒にお昼を食べる時間が大事だったようだ。
「……蓮」
「ん?」
「卵焼き増えてないか?」
蓮の弁当を見て、俺は少し驚いた。
弁当箱の端には、綺麗に並べられた卵焼きがいくつも入っている。
前に見た時は二つか三つぐらいだったのに、明らかに卵焼きの数が多い。
まるでそのまま卵焼きを入れたような見た目だ。
「卵焼きが好きなのか?」
そう聞くと、蓮は少し考えるように首を傾げた。
「好きだけど……」
「だけど?」
「この間、湊が美味しいって言ったから」
一瞬、意味を理解するのに時間がかかった。
「俺が?」
「うん」
「それで増やしたのか?」
「もっと食べるかなって」
当たり前のように言う蓮に思わず言葉が詰まる。
蓮は本当にこういうところがずるい。
普通なら「好きだから作った」で終わる話なのに、蓮の場合はいつも理由の中心に俺がいる。
「わざわざ作ってもらったのか?」
そう言いながら、俺は卵焼きを一つ箸で取ろうとする。
「違う」
「えっ?」
「弁当は自分で作ってる」
思わず手が止まった。
まさか自分で作っているとは思わないだろう。
俺より頭一つ分大きくて、黙っていると近寄りがたい雰囲気すらある男だ。
それに高校生で家事をやっている人も少ないはず。
「蓮って料理できるのか?」
「並にできる」
蓮のことだから謙遜しているのだろう。
俺は卵焼きを口に入れる。
「やっぱり美味しいな」
少しだけ焦げ目があるけど、甘めの味付けで味もしっかり美味しい。
「蓮って器用だね」
「母親しかいないからね」
蓮は特に気にした様子もなく答えた。
でも、その一言が少しだけ引っかかった。
きっと俺が知らないところで、蓮は色々なことをしてきたのだろう。
「昔から作ってるのか?」
「中学生になった時から」
「中学か……」
俺なんていまだに料理をしたことがない。
むしろ、母親が作った料理におかずが少ないと文句を言ってしまうほどだ。
自分のために毎日弁当を作るなんて考えたことすらない。
「やっぱりすごいな」
「別に」
「いや、すごいだろ」
蓮は少し困ったように視線を逸らした。
顔がどこか赤くなっているから、褒められることに慣れていないのだろう。
「じゃあ今度、俺でも簡単に作れる料理教えてよ」
「え?」
「ボッチ同盟の特典だろ?」
俺はニヤリと笑う。
せっかく仲良くなったんだ。
喫茶店で働いているのに、料理の一つや二つできないわけにはいかない。
「やっぱり嫌だった?」
「ううん。楽しみ」
隣から聞こえたのは小さな返事だった。
だけど、その顔は明らかに嬉しそう。
普段、何を考えているかわかりづらいけど、俺といる時だけは少しだけ分かりやすい気がする。
その姿が俺も一緒にいて心地良い。
「何を教えてもらおうかな」
「湊の作った卵焼きが食べたい」
真剣な顔で言われて、思わず笑ってしまう。
「いやいや、包丁も持ったことないやつが卵焼きって難易度高いだろ」
「湊が作るやつが食べたい」
「いや、せめてスクランブルエッグに……」
「卵焼き」
「他は?」
「卵焼きじゃないと教えない」
こういう時だけ意地になってるのか、何を言っても卵焼きしか答えない。
体は大きいのに子どもみたいだな。
でも、こうやって少しずつ、蓮のことを知っていくのが俺もどこか嬉しかった。



