ボッチ同盟を組んだだけなのに、どこか彼の距離感がおかしい

 週末明け、教室に近づくとやけに賑やかな声が聞こえてくる。
 それも男女関係なく、驚きの声が広がっていた。

「みーちゃん! 相方がすげーことになってるぞ!」

 教室に入った瞬間、高橋が勢いよくやってきた。
 それにしてもこの間は〝みなとん〟だったのに、今日は〝みーちゃん〟と誰のことを言っているのかわからなくなる。
 言われるがまま高橋に引っ張られると、女子たちに囲まれている蓮がいた。

「蓮、おはよう」
「ああ、おはよう」

 特に普段と変わりない蓮がいた。
 変わったところと言えば――。

「髪の毛短い方が似合うね」
「湊がそっちの方がいいって言ったから」

 そこには髪の毛を切って、前髪を右へ上げて流している蓮がいた。
 まさか喫茶店で言ったことを気にして、髪の毛を翌日に切ってくるとは思わなかった。
 もしかしたら元々予定は入っていて、俺に意見を聞いてきたのかもしれない。

「みーちゃん、驚かないのか?」
「驚くって……何が?」

 俺の言葉に高橋は驚いた。
 いや、高橋だけではない。
 周囲が息を呑んで静かになるほどだ。

「れんれんがイケメンだって知ってたのか?」
「イケメンって……蓮の顔は元からこんな感じだったよ」

 俺が首を傾げるとさらに静かになる。
 何かおかしなことを言ったのだろうか。

「表情もわかりやすくなって良かったんじゃない?」

 特に気になることもなかった俺は荷物を置いて席に座る。
 後ろの席にいる蓮が囲まれているから、どこか居心地が悪いな。

「ぬあああああ! 二人して俺のモテモテ大作戦を阻止するつもりか」

 それに高橋が相変わらずうるさいからな。
 ただ、蓮が髪の毛を切ったことで、友達ができるきっかけになったのならよかった。
 これで話す人も増えれば、蓮の人見知りも収まる……いや、これはこれであぶなくないか。
 蓮がボッチを卒業すれば、再び俺はボッチとなる。
 高橋たちはいつも五人でいることが多い。
 そこに蓮が入ったら、ペアを組んだ時に俺は自然とボッチになる。
 体育は今週から始まるし、他にもペアになる機会はたくさんあるだろう。
 まさかボッチ同盟が自然消滅するとは俺も思ってなかった。
 俺はその場で頭を抱えながら悩む。

「おーい、お前ら席につけよー!」

 気づいた頃にはチャイムが鳴り、担任の先生がやってきた。

「おっ、黒瀬! 髪が短いのも似合ってるな」

 どうやら担任の先生にも好評のようだ。
 それにやたら視線がこっちに突き刺さるから、俺は顔を上げづらい。
 きっと蓮と比べられていそうだしな。
 どうせ俺は平凡な顔立ちですよ。
 ただ、いつもはびびっていた蓮の隣の席に座る女子ですら、チラチラと蓮を見ている。
 その後の授業中も、やたら視線が痛かった。

「黒瀬くんって前からあんな顔だったっけ?」
「髪型でこんな変わるんだね」
「普通にモデルとかできそうじゃない?」

 小声で話しているつもりなんだろうが、教室が静かな時間なら普通に聞こえてくる。
 俺は黒板を見ながら、ため息を吐いた。
 別に蓮が褒められるのが嫌なわけじゃない。
 むしろ友達が褒められて嬉しいと思っている。
 そして、休み時間になるたびに、蓮の周りには人が集まっていた。

「黒瀬くん、今日の放課後は空いてる?」
「あっ……いや……」

 蓮が声をかけられること自体は良いことだ。
 良いことなんだけど、なんとなく落ち着かない。
 きっと俺の隣にいた蓮が、少しずつ遠くなっていく気がするからだろう。

「湊」

 小さな声で呼ばれて振り返る。
 そこには困り果てた顔の蓮がいた。

「今日は俺と遊ぶ予定がある」

 俺の言葉に蓮は大きくうなずく。
 きっと色んな人に話しかけられて困っているのだろう。
 見た目は変わっていても、蓮は変わっていないようだ。