ボッチ同盟を組んだだけなのに、どこか彼の距離感がおかしい

 俺は体育館前に貼られた名簿を見て、自分の名前を探す。

「黒川(くろかわ)湊(みなと)……黒川……あっ、あった」 

 二年六組に自分の名前を見つけた。
 だが、その中で知っている名前がないことに気づいた。

「おっ、湊おはよー!」
「やっぱり俺だけ仲間はずれか?」
「湊以外は理系クラスだもんな」

 高校二年生に上がったタイミングで進路によってクラスが分けられる。
 俺は文系クラスを選んだことで、一人だけ一年生の時から仲良かったやつらとは離れてしまった。

「それにしても女子ばかりだな」
「そっちの方が思いやられるわ……」

 文系のクラスだから、女子が多いことは覚悟していた。
 そもそもこの辺の学校の中では、女子の制服が可愛いと言われる学校だからな。
 青のチェックスカートに同じ柄の大きなリボン。
 ブラウスも薄みがかった青色に紺色のジャケットと全体的に青色にまとめてあるのが評判良いらしい。
 男子も似たようなデザインだけど、そこまで制服を気にする男子はいないだろう。

「たぶん名前からして十人いたらいい方じゃないか?」

 男子ぽい名前を数えたら十人しかいなかった。
 高校二年生ってイベントが盛りだくさんだ。
 その中でも一番大きなイベントとして修学旅行がある。
 きっとクラスの中で何組か作って、宿泊施設に泊まるだろう。
 そのことを考えると先が思いやられる。

「昼休みには一緒に弁当を食えばいいだろ?」
「でも、お前たちって一組だから教室の縁と縁だぞ……」

 ああ、これは確実に俺だけボッチになるやつだな。

「じゃあ、湊頑張れよ!」
「おう……」

 せめてクラスの中で仲良くなれるような人がいればいいんだけどな。
 そんなことを思いながら、俺たちはお互いの教室に向かっていく。
 教室に近づくとすでに友達ができたのか、騒いでいるのか声が漏れてきている。

「俺たちまた同じクラスだな!」
「もちろんだろ! 女子が少ない理系なんて無理!」
「女好きは相変わらずだな!」

 男の声が聞こえて一安心したが、教室に入った瞬間、仲良くはなれないと思った。

「うわー、陽キャの集まりじゃん」

 髪も僅かに染まっており、ワックスで整えられた姿に俺は何もいえなかった。
 平凡な俺とは異なり、明らかに容姿も派手で女子たちからチヤホヤされるようなグループだ。
 それにすでに仲が良いのか肩を組んでいるやつらもいる。

「なぁ、あいつの名前知ってるか?」
「あー、黒川だったっけ?」
「黒川よろしくな!」

 五人グループの一人が声をかけてきた。
 今まで仲良くなったことない見た目に俺は戸惑う。

「あっ、うん! こちらこそ」

 そこで話は途切れた。
 せっかく数少ないクラスの男子と話すきっかけだったのに緊張して、無難な返ししかできなかった。

「くくく、あいつ戸惑ってるぞ」
「おいおい、いじめてやるなよ」
「はぁん!? そんなつもりねーし!」

 どうやら傍から見たら、いじめられているように見えるのだろう。
 元気が溢れているようなタイプの人たちのノリっていまいちわからないからな。
 俺は頭を下げて、黒板の前に向かう。

「んーっと、後ろから二番目ね」

 黒板に掲示されている座席表を見て、自分の席に向かう。
 席替えがあるまではここで仲良くできる人を見つけられるかが鍵となる。
 俺は席に座り、スマホの待ち受け画面を眺める。
 愛猫の〝ポン酢〟を見ていたら、緊張もほぐれるだろう。

「緊張する……」

 ついに心の声が漏れたのか。
 そう思ったが、その声は遥か上から聞こえてきた。
 見上げるとそこには巨人がいた。」

「はじめまして……」

 髪の毛が長く、目も隠れている巨人は小さな声でボソッと呟いた。
 俺は咄嗟に頷く。
 きっと俺に挨拶したよね?
 巨人も黒板の前まで行くと、すぐに戻ってきた。
 そして、何も言わずに俺の席の後ろに座った。
 どうやらボッチ回避のターゲットは巨人のようだ。
 この一年間を上手く過ごすには、彼と仲良くなる必要がある。 

「あのー、黒川湊って言います。よろし……く」
「あっ……うん……」

 返ってきたのは蚊の鳴くような声だった。
 目も合わせたくないのか、彼は視線を下げたまま。
 まるで俺が一人で話しているみたいだ。
 この先一年間ちゃんとやっていけるのだろうか。
 高校二年生の新学期。
 こうして俺の不安な学校生活が始まった。