優等生の鑑〜いつも笑顔の私を救ってくれたのは、誰よりも私のそばにいてくれた君だった〜

「――え?海に行くことになったの?」
「うん、そう……」
 放課後。
 楽(らく)にそんな相談をする。
 私の居場所だった廊下。
 そこは、私たちの秘密基地でもあった。
 誰も来ることのない場所・北校舎。
 昔、もっと生徒数が多かった頃は、使われていたらしい。
 でも、今はこの通り。
 埃まみれで、寂しそう。
 そんな場所だからこそ、私は落ち着けた。
 誰も来ない場所だから。
 本当の自分でいられるから。
「大丈夫、なのか……?」
「……多分ね」
「多分って……」
「ほら、“あの海”じゃないと思うし。大丈夫、かな~、って」
 精一杯の強がりだ。
 楽(らく)の前では、本来の私で、素の私で、本当の自分でいられるけれど。
 でも、強がってしまう。
 もう、気にしてないよ、って。
 みづきのこと、もう引きずってないよ、って。
 多分、みづきがいなくなった後、私を一番心配してくれてたのは、楽(らく)だったと思うから。
「……でも、あの海の可能性もあるんだろ?」
「それは、そうだけどさ……。でも、“あの海”の近くにショッピングモールなんてなかったでしょ?だから……」
「……まあ、どうせ行く前にどこの海か分かるだろうし。それから決めれば?……行きたいんだろ?長谷川(はせがわ)さんと遊びに」
「うん……」
 楽(らく)は、少し遠い所をみているような気がした。
 近くて遠い、未来を……。
「海、行けるようになれば良いな」
「うん……」
 あの事故があってから、私は海に行けていない。
 そのこと、楽(らく)は知ってたんだ……。
「……まあ、良い刺激になるかもな。……じゃあ」
「うん、またね」
 楽(らく)は、おばあちゃんのお見舞いに行くらしい。
 少し寂しい気持ちになりながら、窓の外を眺める。
 青空が広がっていた。
「……海、行けるかな」
 ぼんやりとしながら、そんなことを言う。
 誰からも返事なんてない。
 ただの独り言。
 ――の、はずだった。

「行こうと思えばいつでも行けるだろ」

 後ろから、声が聞こえた気がした。
 思わず振り返る。
「……そ、空(そら)……?」
「そうだけど。……アンタ、赤間(あかま)だろ?赤間(あかま) 瑠愛(るあ)」
「そう、ですけど……」
 そこにいたのは、空(そら) 京(けい)だった。
 明るい色の髪の毛。
 整った顔立ち。
 ……その見た目からは想像できない成績。
 色んな意味で、学校で目立っている人。
「……西壁(にしかべ)、もう帰った?」
「ああ……、うん。おばあちゃんのお見舞い行く、って」
「そっか。……じゃあな、赤間(あかま)」
「え、あ、うん……」
 去っていく空(そら)の背中を見つめる。
 ……空(そら)って、楽(らく)の友達だったんだ。
「――あ、そうだ。……海、だっけ。……行きたいとこには、行けるときに行きな。人間、突然死ぬことだってあるから。やりたいことは、やれる時にやっとけ」
 行ける時に、行く。
 やれる時に、やる。
 力強くて、なぜか説得力を感じた。

 ――人間、突然死ぬことだってあるから。

 本当に、その通りだ。
 みづきは、本当に突然死んだ。
 私は、電話で、そのことを聞いた。
 ……空(そら)も、誰かを失ったのかな。
 大切な、誰かを、突然……。
「……ありがと、空(そら)」
 その言葉は、空(そら)に届いただろうか。