優等生の鑑〜いつも笑顔の私を救ってくれたのは、誰よりも私のそばにいてくれた君だった〜

「……よっ、瑠愛(るあ)
(らく)……。どうしたの?」
 放課後、私は、北校舎……今全く使われていない校舎の最上階にいた。
 人が来ないから、落ち着けるのだ。
 なのに、まさか(らく)がいるなんて……。
「俺も、ここたまに来てたんだよね。そしたら、瑠愛(るあ)のハンカチ見つけたことがあって。瑠愛(るあ)も来てるのかなーって」
「へー。そう……」
「……大丈夫だって。ここ、誰も来ないし。中学の時みたいにはならないよ」
 中学の時……。
 中学の時、私たちは、付き合っていると誤解されて、嫌な思いをした。
 だから、徐々に離れていった。
「そう、だよね……」
「……ってか、立川(たちかわ)とか本田(ほんだ)とか、お前と気が合うタイプじゃないだろ?」
「……まあ、ね」
「俺しか聞いてないから、なんでも言って良いよ」
 昔からそうだ。
 私は、(らく)の前では素直でいられる。
 飾らない自分でいられる。
 ……本音を言える。
 本心を曝け出せる。
「確かに、好きなタイプではないかな。どちらかというと苦手。でも、良い子だし。仲良くしてくれてるし」
「ふーん……。でも、まあ、瑠愛(るあ)と気が合うのは、長谷川(はせがわ)くらいか」
「……クラスは離れちゃったけどね」
 廊下に置いてある椅子に腰かける。
 (らく)が持ってきたのだろうか。
 (らく)は、近くの教室に入り椅子を持ってきた。
 そこ、鍵開いてたんだ……。
 少し感動する。
「まあ良いじゃん。友達だろ?」
「うん、まあね」
 (りん)は大切な友達だ。
 波長が合っている、って言うのかな……?
 いや、違うかな……。
 国語は苦手だ。
 なんとなく言葉は知ってるけど、意味は知らない、みたいな。
 そういうのが多い。
「……でも、良かったよ。瑠愛(るあ)に、友達って呼べる人ができて」
 本気で心配していたんだろう。
 横顔は、真剣だった。
(らく)……」
「だって、瑠愛(るあ)、みづきのこと、ずっと気にしてるだろ?」
 夕焼けが、彼の横顔を照らす。
 ……その通りだった。
 みづき――葛西(かさい) みづきは、私と(らく)の幼なじみ。
 でも、もういない。
 小学六年生の夏、向こうに逝ってしまったから。
 快晴の日だった。
「だから、なんか、これから友達とかできるのかなーって気になってて。教室から瑠愛(るあ)長谷川(はせがわ)さんが二人で話しながら歩いてるの見て、なんていうか……。安心したんだよ」
「ごめんね……。心配かけて」
 ずっと、みづきのことが頭から離れない。
 もし、あの日、私が――。
「帰ろ、瑠愛(るあ)
「うん……」
 腕を引っ張って、立たせてくれる。
 ……なんだ。
 不安になることなかったじゃん。
 普通に話せた。
 さっきまで、普通に話せるか心配しかなかったのに……。
「……今日、おばさんは?」
「当直で遅いらしい」
「そっか……」
 少しだけ、羨ましいと感じてしまう。
 お母さんもお父さんも、私に興味なんてないから。
 お母さんは出張ばかりで、お父さんは単身赴任中。
 お兄ちゃんは、一人暮らし中。
 家は、一人。
 独りぼっち。
瑠愛(るあ)のとこのお母さんは、いつ帰ってくるの?」
「……分かんない」
 お兄ちゃんはなんでもできた。
 勉強も、運動も、何もかも完璧だった。
 だから、二人は私に興味がない。
 ……みづきも、家庭に事情を抱えていた。
 お母さんは、未成年でみづきを産んでしまって、捨てられた。
 その後、親戚の人に引き取られたみたいだけど、あんまり上手くいかなかったみたい。
「……また、どっか遊びに行こう」
「それは、どうかな~?」
「遠くまで行けば大丈夫だよ。お小遣いならあるだろ?」
「まあね……」