きみを呼ぶのをやめるまで

 今年で二十歳になった。莉子は生きていたら、十九歳だろう。それはそれは美人になったはずだ。メイクした姿も見てみたいな、なんて思う。
 7月24日。彼女の命日に、俺は帰省してお墓参りに来ていた。その日は雲一つない快晴で、突き刺すような日差しが痛い。かぶっていたキャップを一度取って、腕で汗を拭ってから付け直した。
 花束に新聞紙、雑巾、スポンジなどを一度お墓の前に置いてから、桶に水を入れて運んでくる。よし、と気合いを入れてから、柄杓で水を掬って上から丁寧にかける。毎日猛暑日でずっと日差しにさらされて暑いだろうから、冷たい水に触れてほしい。
 それから、スポンジで汚れた部分を中心に磨いていく。莉子の体を拭いていると考えると、なんだか気恥ずかしいし後ろめたいが。土埃のせいで結構砂の塊がこびりついているものだ。丁寧に落としていく。
 綺麗になったところで、もう一度柄杓で水をかける。最後に、雑巾で乾拭きして掃除は終わりだ。
 線香に火をつけ、香炉に立てる。手を合わせ、語りかける。言葉はシンプルにした。その代わり、丁寧に便箋を買って綴った手紙を、文鎮で押さえつけて置いておいた。
 びゅうと、一陣の風があたりを吹き抜け、線香の煙を微かに揺らした。

・・・

 拝啓 阿部莉子様

 あれから四年が経ったね。長かったような気もするし、あっという間だった気もするよ。とにかく、莉子がいない世界は寂しいし、つまらないし、でも、俺は確かに前に進んでるよ。
 科学大の数学科に進学したんだ。周りは男ばっかり。まあわかってはいたけどな。男同士馬鹿騒ぎして、毎日が楽しいよ。俺、意外と酒飲めるんだよね。学科同期とかサークルとかバイト先の人とかと飲み歩いて、大学生してる。
 心配しなくても、俺は大丈夫だから、天国で遊びまくっていてよ。それで、気長に待っていてくれ。俺も、人生を謳歌したあとに、そっちに行くから。そうしたら、そのときまた前みたいに遊んだり、話したりしよう。
 まだ俺は、莉子より素敵だと思える女性に出会えていないよ。学科が男ばかりだからかもしれないけど。なんて言ったら、笑いながら言うんだろ? 私のことなんて早く忘れてよってさ。
 忘れるわけないだろ。お前みたいな印象深い女の子をさ。だから、お前も忘れるんじゃないぞ。間違っても、天国のどうでもいい男に引っかかるなよ。

 及川颯介より


【了】