白堊祭は、應援團の校歌斉唱で幕が上がる。亮司と教室で着替え、お互いの髪の毛をウィッグの中に隠し合う。俺はグラサンをかけ、亮司はキャラのチャームポイントである前髪の束を垂らし、写真を撮って姿を確認した。自分の姿を見て、頬がかあっと熱くなるのがわかる。やっぱり、俺なんかが五条悟のコスプレなんて、許されないだろう。今すぐにでも脱いでしまいたい。
「え! やばいやばい! 五条と夏油じゃん! え、めっちゃ似合うー! 写真撮らせて!」
「やば! 流石に面白すぎるって」
女子が何人か、一緒に写真を撮ってほしいと頼んできたが、恥ずかしさで素直には喜べない。亮司は元来のおちゃらけキャラを発揮して、格好つけてポーズなんか決めたりセリフを言ったり。
徐々に一般客が校内に入ってきて、賑やかになってきた。
「じゃあ、行こうか。悟」それっぽく亮司が言う。俺は「おう」としか返事できなかった。なんでそんなにノリノリなんだよ。
莉子はどこにいるのだろうか、朝から姿を見かけていない。昨日の夕方、明日は一緒に回ろうと約束したのだ。だからあとでどこかで落ち合わなければいけないのだが、いかんせん連絡手段がない。どうしたものか、と考えながら、とりあえず亮司についていく。
食い意地の張っている亮司によって、いくつかの食事系のクラスを回っていると、すぐに自分のシフトの時間になった。リアル脱出ゲームを主催しているうちのクラスは、2日間の白堊祭の中で二回、必ず教室に戻って何かしらの係をやらなければならない。
亮司と同じ時間に入れてもらっていたから、二人揃って教室に向かう。すると、教室の端っこに張りつく形で、莉子が佇んでいるのを見つけた。俺が小さく声を上げると、亮司は事情を察したようだった。
「すまん。俺、シフト終わったら、莉子と一緒に回りたい」
「悟、一人称”俺”はやめたほうがいい」
「もうええて。それより、いい?」
「はっ! やなこったって言うんだよ、そこは。別に私はいいけど、どうやって回るんだ? 相手誰からも認識されないんだぞ?」亮司はしっかり一人称を夏油傑リスペクトで”私”にしているようだった。白堊祭が終わるまでずっとこのキャラで行こうと思っているのだろうか。
「なんとかなるだろ。というか、俺が気にしなきゃいい話だ」
シフトの時間中は適当にやり過ごした。クラスメイトが作った謎解きを頑張って親と一緒に解く小学生、一高を受験するつもりなのか、一高生を見定めているようにも見える中学生、そしてガチになってタイムアタックを始める一高生。さまざまなお客様を迎え、そこそこに盛況を博していた。
交代の時間になり、次の担当者が戻ってくる。俺は莉子に目配せをして、さっさと教室をあとにした。
廊下では話しにくい。各階の中央にあるベランダに出ることにした。一般客が買った食べ物を食べているようだったが、俺は気にせずその中に入っていき、柵に腕を乗せてグラウンドを見下ろした。いい天気で、淡い水色の空が広がっている。グラウンドには、歌うまを決めるカラオケ大会の準備がせっせと行われているようだった。
「コスプレ、似合ってるんじゃない?」
「めちゃくちゃ恥ずかしいけどな」
「何よ。褒めてあげてるんだから、素直に受け取りなさい」
「そうかよ……ありがとう」
少し沈黙が訪れる。いつも川沿いで話しているときは、会話が途切れることはあまりない。きっと、人前だから莉子が遠慮しているのだろう。俺も無意識に気にしてしまっているのかもしれない。
俺はすべてを振り払うために、思い切り頭をブンブンと横に振った。少し近くにいた他校の女子高生がびっくりして若干引いていたが、それも気にしない。
「莉子。俺、今日は何も気にせず、お前と回るのを楽しむつもり。だから、お前も気にしないで何でも喋ってよ」
莉子が数秒固まった気がした。怒らせたか失望させたかの二択だと思って焦ったが、どうやらそうではないようだ。
「わかった。そうさせてもらうね」
つつじみたいな程よく豪華な花弁の花が開いたように、目の前の少女は爽やかに微笑んだ。それがあまりにも綺麗で儚くて、俺は心臓を力強く掴まれてしまった。
――今日は、絶対に莉子を楽しませよう。
行こう、と言って少し駆け足で屋内に戻り、まずは近いところからと、とりあえずワッフルが売られている教室に入ってから気がついた。莉子は幽霊だ。物に触れることはできても、食べることはできない。この間言っていた。家にある物を食べようとしたら、口の中に入れてもそのまま床に落ちてしまうのだそうだ。
ミスった。でも、並び始めた手前、どうすることもできない。
「ごめん、ミスった。食えないんだったよな……」
「何やってんのよ」
莉子は困ったように笑って、隣に来た。大人びた横顔に見惚れてしまう。なんだか、一緒にいる時間が増えたからか、生前よりも莉子のことを好きになっている気がする。
ワッフルを買って、食べるためにまたバルコニーに戻る。莉子は羨ましそうにワッフルを眺めていた。
「本当ごめん。俺が感想伝えるから……」
「そんなの余計食べたくなっちゃうでしょ? なんでそんなこともわからないかなぁ……」
「いやぁ、本当すまん……」
店に入ったときは大丈夫だったはずなのに、ワッフルの実物を目にしてから、莉子が明らかに不機嫌になってしまった。もともと顔が綺麗系で冷たい印象なのも相まって、不機嫌なときはとても怖く映る。俺はさっさとワッフルを口に詰め込んだ。チョコソースが残った皿をくしゃりと丸めて、次の場所に向かうことにした。
難しい。莉子が周りからは見えないというのは、思ったよりも不便な事実だ。それこそリアル脱出ゲームや人狼ゲームのような、体験型の催しをしているクラスは結構あるが、莉子は人数カウントされない。一人で入っても変人に思われるだけだし、それでは莉子も楽しめないだろう。
俺は最終手段を使うことにした。
「莉子、どこか行きたいところ、ある?」
しかし、莉子は目に見えてさらに不機嫌になってしまった。なんでだ? 俺はミスったのか?
「自分で考えてよ。思いつかないからって希望を聞いてるふりして誤魔化してるだけでしょ」
どうやら見抜かれていたようだった。
「そんなつもりじゃないんだ……。えっと、そ、そうだ、リサイタルを見に行こうよ。ほら、英語部と軽音を兼部してる莉子の友達がいたじゃん」
俺は慌ててプログラムを開き、リサイタルの予定を確認する。ちょうど、数分後に莉子の友達を含めたバンドが演奏するようだ。予定表を見せると、莉子は満足そうに頷いた。機嫌が戻ったようで本当に安心したのだった。
それから、展示や発表系を見ていくことにした。各部の展示は意外にも面白かった。亮司とだったら絶対に来なかっただろう。
生物部の研究展示や二重らせん構造のストラップ販売を、莉子は興味津々に眺めていた。俺は莉子にあげるという名目でそのストラップを購入する。
「あげるよ。でも、莉子はどこにもつけられないだろうから、俺が代わりにつけるわ」
「じゃあ、ペンケースにつけてね」くすっと笑いながら言われた。
文芸部の冊子を俺がめくって見せたが、これは買わないと読めない、でも買ってもどうせ颯介は読まなそうだから、という謎の理論で買わせてくれなかった。いや、別に欲しかったわけではないのだが。
應援委員会の展示は面白かった。少し遠くの笹藪まで行って取ってきたのだという笹を床に散らし、黒い幕で仕切りを作って、白堊神社と名付けられた祠のようなものを置いている。雰囲気作りが上手い。
うちのクラスの指導有志がちょうどそのときシフトだったようで、おう、及川、と声をかけてきた。未だにクラス全員の名前を覚えているのは、すごいことだと思う。
「一人で来たのか?」
「あ、えっと……はい。友達は今シフトで」咄嗟に言い訳が口から飛び出る。
「そうかそうか。ほら、おみくじ引いてけ。團の先輩たちと徹夜で作ったんだよ」
おみくじの箱を差し出してくる。この白堊神社でおみくじを引かせるというのが、應援委員会の毎年恒例の展示なのだそうだ。
「あの、友達の分も引いてもいいですか?」
「え、お前が? それ、意味ないんじゃないのか」先輩は笑いながら、でも許可してくれた。
箱の穴に手を突っ込み、まずは俺の分を引く。そして、一枚を片手で持ち、もう片方の手をまた穴の中に突っ込む。すると、意図を察したのか、莉子が近づいてきて、箱の中に手を入れ、一枚を選んで俺の手にくっつけてきた。距離がものすごく近くて、手は感触がないのに触れている実感があって、心臓が早鐘を打つ。
堪えきれずにすぐ手を取り出した。
「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで」
先輩に挨拶をして、少し不気味な部屋を出る。廊下の端っこで、引いたおみくじを開いてみる。まずは俺の分。
「何だよ、末吉じゃねえか……それに『白堊城陥落の元凶になるでしょう』って意味わかんねえのに不吉だな」
「あっはは! 日頃の行いだよー」
「いやいや、お前だってどうせ悪いこと書かれてんだから」
「それはどうでしょーか!」
馬鹿にしてくる莉子を横目に、もう一枚を開く。すると――。
「ほーら、大吉じゃん! 『真の一高生へ。輝かしい未来が待っています』だって……」書いてあった文章は今の莉子にとっては酷なもので。読み上げる声が尻すぼみになっていく。俺は慌ててフォローしようと努める。
「真の一高生だってよ。團から認められてるってことじゃん。それに、俺と一緒にいれば、これからいくらでも何でもできるんだから、輝かしいだろ?」
莉子には笑っていてほしい。できる限り優しく、それでいて絶対にそうであると確信していることを示すように伝えた。
「そうだよね。ありがとう」
色々な感情が入り混じったような表情で呟くように感謝を述べられた。
「次、行こうぜ。天文部の天体望遠鏡見たくね? こういう行事のときしかパンピーは見れないんだしさ」
天体望遠鏡から覗いた宇宙は、あまりよくわからなくて、でもそれはそれで面白かった。俺が説明を聞いている間に、莉子も除くことができたようで、綺麗だった! と満足そうにしていた。
莉子を楽しませるのに必死だった俺は、いつの間にか自分もしっかり楽しんで幸せを味わっていることに気づいたのだった。
「え! やばいやばい! 五条と夏油じゃん! え、めっちゃ似合うー! 写真撮らせて!」
「やば! 流石に面白すぎるって」
女子が何人か、一緒に写真を撮ってほしいと頼んできたが、恥ずかしさで素直には喜べない。亮司は元来のおちゃらけキャラを発揮して、格好つけてポーズなんか決めたりセリフを言ったり。
徐々に一般客が校内に入ってきて、賑やかになってきた。
「じゃあ、行こうか。悟」それっぽく亮司が言う。俺は「おう」としか返事できなかった。なんでそんなにノリノリなんだよ。
莉子はどこにいるのだろうか、朝から姿を見かけていない。昨日の夕方、明日は一緒に回ろうと約束したのだ。だからあとでどこかで落ち合わなければいけないのだが、いかんせん連絡手段がない。どうしたものか、と考えながら、とりあえず亮司についていく。
食い意地の張っている亮司によって、いくつかの食事系のクラスを回っていると、すぐに自分のシフトの時間になった。リアル脱出ゲームを主催しているうちのクラスは、2日間の白堊祭の中で二回、必ず教室に戻って何かしらの係をやらなければならない。
亮司と同じ時間に入れてもらっていたから、二人揃って教室に向かう。すると、教室の端っこに張りつく形で、莉子が佇んでいるのを見つけた。俺が小さく声を上げると、亮司は事情を察したようだった。
「すまん。俺、シフト終わったら、莉子と一緒に回りたい」
「悟、一人称”俺”はやめたほうがいい」
「もうええて。それより、いい?」
「はっ! やなこったって言うんだよ、そこは。別に私はいいけど、どうやって回るんだ? 相手誰からも認識されないんだぞ?」亮司はしっかり一人称を夏油傑リスペクトで”私”にしているようだった。白堊祭が終わるまでずっとこのキャラで行こうと思っているのだろうか。
「なんとかなるだろ。というか、俺が気にしなきゃいい話だ」
シフトの時間中は適当にやり過ごした。クラスメイトが作った謎解きを頑張って親と一緒に解く小学生、一高を受験するつもりなのか、一高生を見定めているようにも見える中学生、そしてガチになってタイムアタックを始める一高生。さまざまなお客様を迎え、そこそこに盛況を博していた。
交代の時間になり、次の担当者が戻ってくる。俺は莉子に目配せをして、さっさと教室をあとにした。
廊下では話しにくい。各階の中央にあるベランダに出ることにした。一般客が買った食べ物を食べているようだったが、俺は気にせずその中に入っていき、柵に腕を乗せてグラウンドを見下ろした。いい天気で、淡い水色の空が広がっている。グラウンドには、歌うまを決めるカラオケ大会の準備がせっせと行われているようだった。
「コスプレ、似合ってるんじゃない?」
「めちゃくちゃ恥ずかしいけどな」
「何よ。褒めてあげてるんだから、素直に受け取りなさい」
「そうかよ……ありがとう」
少し沈黙が訪れる。いつも川沿いで話しているときは、会話が途切れることはあまりない。きっと、人前だから莉子が遠慮しているのだろう。俺も無意識に気にしてしまっているのかもしれない。
俺はすべてを振り払うために、思い切り頭をブンブンと横に振った。少し近くにいた他校の女子高生がびっくりして若干引いていたが、それも気にしない。
「莉子。俺、今日は何も気にせず、お前と回るのを楽しむつもり。だから、お前も気にしないで何でも喋ってよ」
莉子が数秒固まった気がした。怒らせたか失望させたかの二択だと思って焦ったが、どうやらそうではないようだ。
「わかった。そうさせてもらうね」
つつじみたいな程よく豪華な花弁の花が開いたように、目の前の少女は爽やかに微笑んだ。それがあまりにも綺麗で儚くて、俺は心臓を力強く掴まれてしまった。
――今日は、絶対に莉子を楽しませよう。
行こう、と言って少し駆け足で屋内に戻り、まずは近いところからと、とりあえずワッフルが売られている教室に入ってから気がついた。莉子は幽霊だ。物に触れることはできても、食べることはできない。この間言っていた。家にある物を食べようとしたら、口の中に入れてもそのまま床に落ちてしまうのだそうだ。
ミスった。でも、並び始めた手前、どうすることもできない。
「ごめん、ミスった。食えないんだったよな……」
「何やってんのよ」
莉子は困ったように笑って、隣に来た。大人びた横顔に見惚れてしまう。なんだか、一緒にいる時間が増えたからか、生前よりも莉子のことを好きになっている気がする。
ワッフルを買って、食べるためにまたバルコニーに戻る。莉子は羨ましそうにワッフルを眺めていた。
「本当ごめん。俺が感想伝えるから……」
「そんなの余計食べたくなっちゃうでしょ? なんでそんなこともわからないかなぁ……」
「いやぁ、本当すまん……」
店に入ったときは大丈夫だったはずなのに、ワッフルの実物を目にしてから、莉子が明らかに不機嫌になってしまった。もともと顔が綺麗系で冷たい印象なのも相まって、不機嫌なときはとても怖く映る。俺はさっさとワッフルを口に詰め込んだ。チョコソースが残った皿をくしゃりと丸めて、次の場所に向かうことにした。
難しい。莉子が周りからは見えないというのは、思ったよりも不便な事実だ。それこそリアル脱出ゲームや人狼ゲームのような、体験型の催しをしているクラスは結構あるが、莉子は人数カウントされない。一人で入っても変人に思われるだけだし、それでは莉子も楽しめないだろう。
俺は最終手段を使うことにした。
「莉子、どこか行きたいところ、ある?」
しかし、莉子は目に見えてさらに不機嫌になってしまった。なんでだ? 俺はミスったのか?
「自分で考えてよ。思いつかないからって希望を聞いてるふりして誤魔化してるだけでしょ」
どうやら見抜かれていたようだった。
「そんなつもりじゃないんだ……。えっと、そ、そうだ、リサイタルを見に行こうよ。ほら、英語部と軽音を兼部してる莉子の友達がいたじゃん」
俺は慌ててプログラムを開き、リサイタルの予定を確認する。ちょうど、数分後に莉子の友達を含めたバンドが演奏するようだ。予定表を見せると、莉子は満足そうに頷いた。機嫌が戻ったようで本当に安心したのだった。
それから、展示や発表系を見ていくことにした。各部の展示は意外にも面白かった。亮司とだったら絶対に来なかっただろう。
生物部の研究展示や二重らせん構造のストラップ販売を、莉子は興味津々に眺めていた。俺は莉子にあげるという名目でそのストラップを購入する。
「あげるよ。でも、莉子はどこにもつけられないだろうから、俺が代わりにつけるわ」
「じゃあ、ペンケースにつけてね」くすっと笑いながら言われた。
文芸部の冊子を俺がめくって見せたが、これは買わないと読めない、でも買ってもどうせ颯介は読まなそうだから、という謎の理論で買わせてくれなかった。いや、別に欲しかったわけではないのだが。
應援委員会の展示は面白かった。少し遠くの笹藪まで行って取ってきたのだという笹を床に散らし、黒い幕で仕切りを作って、白堊神社と名付けられた祠のようなものを置いている。雰囲気作りが上手い。
うちのクラスの指導有志がちょうどそのときシフトだったようで、おう、及川、と声をかけてきた。未だにクラス全員の名前を覚えているのは、すごいことだと思う。
「一人で来たのか?」
「あ、えっと……はい。友達は今シフトで」咄嗟に言い訳が口から飛び出る。
「そうかそうか。ほら、おみくじ引いてけ。團の先輩たちと徹夜で作ったんだよ」
おみくじの箱を差し出してくる。この白堊神社でおみくじを引かせるというのが、應援委員会の毎年恒例の展示なのだそうだ。
「あの、友達の分も引いてもいいですか?」
「え、お前が? それ、意味ないんじゃないのか」先輩は笑いながら、でも許可してくれた。
箱の穴に手を突っ込み、まずは俺の分を引く。そして、一枚を片手で持ち、もう片方の手をまた穴の中に突っ込む。すると、意図を察したのか、莉子が近づいてきて、箱の中に手を入れ、一枚を選んで俺の手にくっつけてきた。距離がものすごく近くて、手は感触がないのに触れている実感があって、心臓が早鐘を打つ。
堪えきれずにすぐ手を取り出した。
「ありがとうございます。じゃあ、俺はこれで」
先輩に挨拶をして、少し不気味な部屋を出る。廊下の端っこで、引いたおみくじを開いてみる。まずは俺の分。
「何だよ、末吉じゃねえか……それに『白堊城陥落の元凶になるでしょう』って意味わかんねえのに不吉だな」
「あっはは! 日頃の行いだよー」
「いやいや、お前だってどうせ悪いこと書かれてんだから」
「それはどうでしょーか!」
馬鹿にしてくる莉子を横目に、もう一枚を開く。すると――。
「ほーら、大吉じゃん! 『真の一高生へ。輝かしい未来が待っています』だって……」書いてあった文章は今の莉子にとっては酷なもので。読み上げる声が尻すぼみになっていく。俺は慌ててフォローしようと努める。
「真の一高生だってよ。團から認められてるってことじゃん。それに、俺と一緒にいれば、これからいくらでも何でもできるんだから、輝かしいだろ?」
莉子には笑っていてほしい。できる限り優しく、それでいて絶対にそうであると確信していることを示すように伝えた。
「そうだよね。ありがとう」
色々な感情が入り混じったような表情で呟くように感謝を述べられた。
「次、行こうぜ。天文部の天体望遠鏡見たくね? こういう行事のときしかパンピーは見れないんだしさ」
天体望遠鏡から覗いた宇宙は、あまりよくわからなくて、でもそれはそれで面白かった。俺が説明を聞いている間に、莉子も除くことができたようで、綺麗だった! と満足そうにしていた。
莉子を楽しませるのに必死だった俺は、いつの間にか自分もしっかり楽しんで幸せを味わっていることに気づいたのだった。



