橙子さんの娯楽飯

「ちょっと工場からサンプルを直接預かってきて欲しくて。」
「はぁ。」
「一日出張って扱いだけど、サンプルをもらいに行く時間は昼に約束してるし、午前にあっちに行ってからの時間は好きに過ごしていいよ。連絡だけは取れるようにしてね。」
「!はい。」
(ラッキー!)
橙子はそう思った。

「ここか……。」
出張当日、橙子は早朝からおしゃれな店の前に立っていた。
「なんならいつもの出勤時間より早くに家を出たもんね〜。」
店内に入る。ふわりと優しく甘い匂いが橙子を包んだ。
「ふわぁ〜!最高……!」
優しげな笑顔の女性のスタッフに座席を案内してもらう。
(窓際だ。いいね。)
「すみません。注文いいですか?」
橙子の言葉にスタッフが微笑んだ。
「パンケーキのモーニングで。シロップと……ジャムはブルーベリーをお願いします!」
注文を終え、橙子は窓の外を見た。朝日のきらめきがガラスに反射する。
(流石みゆのおすすめ、当たりだな〜。)
お店をおすすめしてくれた友人に心の中で感謝する。昨日、出張先を伝えたら「ぜひ、ここのパンケーキをモーニングで食べてみて。」と教えてくれたのだ。爽やかな朝が感じられる店内。物静かだが、人が少ないわけではない。
「お待たせいたしました。」
スタッフがパンケーキを持ってきた。店内に漂っていた甘い空気が、橙子の目の前に現れる。
「ふわっふわだ……!」
橙子は目を輝かせた。二段のパンケーキに添えられたブルーベリーのジャムがツヤツヤと光っていて綺麗だ。橙子はシロップをとろりとかけた。少し溶けたバターにシロップが覆い被さる。
「うわわ……美味しそう……。あ、写真写真。」
橙子はナイフとフォークを一度手に取ったが、机に置き直し、スマホを構える。
「食べにきたよ……と。」
友人に写真とメッセージを送る。
「さて。」
改めてナイフとフォークを持つ。最初に六等分に切ると切れ目にもシロップが染みていった。一切れ口に入れる。
「うまぁ……!」
じわ〜っと甘さが口に広がる。ぷわぷわと揺れるような柔らかいパンケーキの生地がとろりと崩れていった。
「んふふ。ふまぁい……。」
うっとりとする橙子。
「次はブルーベリージャムも……。」
ブルーベリージャムもつけて、次の一切れを食べる。先ほどの甘さにブルーベリーの甘酸っぱさが合わさって、これはこれでまた美味しい。崩れきっていないブルーベリーの果肉の食感もいい。
「ブルーベリー最高だ〜!」
橙子は、パクパクとパンケーキを食べて、一緒に頼んだ紅茶を飲んだ。ふぅ……と満足げに微笑む。
「最高のはじまりかも……。」
グッと体を伸ばし、気合いを入れる。お店をでて、工場に向かう橙子。カツカツとヒールの音が軽やかに響いた。