悪役令嬢に転生した干物女は酒の肴を食べたい。

「肉ならこのダイスステーキも食べてみて。うちのシェフの腕は確かだから」

「いやいやいやいやいや、あっちでお見合いしなくていいんですか」

「香水のにおいって入り混じるとすごく臭いと思わないかい」

「はい?」

 なんの脈絡もないことを言い出した。

「彼女たち、他と差をつけるためなのか、どこから取り寄せたのかわからないような香水をしていてね。それらが全部混じり合ってすごいにおいになっているんだ」

「一人一人のは少量でも、あれだけの人数が集まればそうなりますね」

 ミックス香水の臭いが嫌だからって、ワインとチーズで酒飲みタイムに突入している干物のところに来なくてもいいじゃないね。

 ハムをフォークで刺してもぐもぐ。

 塩けがいい感じ。

 ステーキもウェルダン具合が最高だね。ワインおかわり。

 てきとうに相槌を打ちながらワインを飲む。

「君が噂の食神の聖女様でしょう。クリティア」

「聖女なんて他人が勝手に言っていることで、私は美味しいものを食べるのが好きな、普通の人間です」

「ぼくも。王子に生まれたって以外、どこにでもいるただの人間だよ。何も考えず食べているのが好きなんだ。気が合うね」

 ただ何をするでもなく、どうでもいいことを話しながら立食ブースに並んだツマミを食べた。

 久しぶりだなこういうの。偶然隣の席になった名も知らない誰かと飲むのも、たまにはいいもんだ。

 もしかして王子の婚約者候補!? と噂されてしまったが、ただの飲み仲間である。