悪役令嬢に転生した干物女は酒の肴を食べたい。

 美味しい酒の肴を食べたいから調理場に立っているだけの私は、明らかに合わない。

 親のためにここにいるだけ。今だって、早く帰って酒飲みたいとしか思っていない。

 俯いているクロムに、ミラが声をかける。

「クロム様、一曲踊っていただけませんか。わたくし、知らない方と踊るのは得意ではなくて。でもここに来たら最低一曲は踊らないといけないでしょう?」

「俺でいいのでしたら」

 たぶんミラなりの気配り。

 クロムはミラに手を差し伸べ、二人でフロアに出ていく。

「うふふ。いい雰囲気ですわね。ミラ様が妹になる日も近いのではなくて?」

「どうかしらね」

 ヨイの目には二人がいい感じに見えるらしい。

 年頃の乙女が言うんだから多分そう。

 私に声をかけてくる男性はいない。

 ロブソンとの婚約破棄大騒動を知っている人は声をかけにくかろう。

 私は婚約破棄されちゃったかわいそうな人である。

 壁の花をしていて咎められないなら、立食スペースで酒でももらおう。

 白ワインをあおり、スモークチーズをいただく。

 さすがお城で出される逸品。

 うめーですわ。

「そのワインにはこっちの生ハムも合いますよ」

「ああ、どうもありがとうござ……」

 のんびり間延びした男の声がして、小皿を差し出された。

 ダンスラッシュが嫌になってこっちに来た人かな。

 ありがたく皿を受け取ろうとして、顔をあげてびびった。

 お見合いダンス真っ最中のはずのカイン王子がなんでこっちにいるんだ。