悪役令嬢に転生した干物女は酒の肴を食べたい。


 二人は隣国の国王陛下からの祝い酒を飲み、カイン王子は満足そうに二人の背中を叩く。

「さあさあ。私も二人のために新しい料理を作ったわ! これを食べて! ぜんざいよ!」

 私は大鍋の前でお玉を振るう。
 市場で見つけたいい感じの小粒の豆をじっくり煮込んで、砂糖とひとつまみの塩で味を整えた。
 香ばしい豆の香りと蜜のような甘い匂いが風に乗って、庭全体に広がっていく。
 この世界にはウエディングケーキがないから、代わりに何か甘いものをね。

 ぜんざいを汁碗に盛り付けて、みんなに振る舞う。
 ミラは口をつけて頬を紅潮させる。

「まぁ! いい香りですわ。豆のスープがこんなに甘いなんて。ぜんざいというのは不思議ですわね」
「豆というと、トマトや塩と煮込むものとばかり思っていたが、存外うまいな」

 クロムも珍しそうにしながらぜんざいを飲む。

「ぜんざいだーーー! やったー! 超おいしー!」
「あ! ちょっとまってミゲル独り占めはだめよ! あたしの分なくなるじゃない!」  

 相変わらずミゲルとコリンは小学生みたいな喧嘩をする。

「はいはい。ちゃんと人数分より多めに作ってあるからけんかしない!」

 異世界にはない、日本風の“甘い汁もの”に戸惑いながらも、みんな味わってくれている。これだけ好評ならレシピ本第五弾に書けるな。

「どうぞ、おかわりもたくさんありますよ~」

花びらが舞い、ぜんざいの香りに包まれながら、会場は柔らかな祝福に満ちていく。

だが、その空気は――
一通の手紙によって、奇妙な方向へ変貌することとなった。

「失礼します。奥様。旦那様。お手紙が届きました」

ジーニャが、息を切らして走ってきた。
差し出された封筒には、見慣れた名前があった。

「……ロブソン・リフジンスキー様より」

「ロブソン、様ですか……」

 使用人含めた全員が、なんでこんなめでたい日に……という顔になる。
 母上がジーニャの手から封書を受け取った。

「……目を通しておきましょうか。何か火急の用かもしれません」
「やめておいたほうがいいんじゃないですか、母上」
「今回こそは必読の話かもしれませんから」