「キスしたら、俺の」――突然のキスで、勝手に恋人宣言されました

 碧は保健の石島先生に連れられて、病院受診になった。
 接触者である僕は、保健室で検査をして陰性だったので、教室に戻された。

 それから三日間、碧は学校を休んだ。

『明日から、学校行く』
『大丈夫なのか?』
『検査、陰性だった』
『それも大事だけど、そうじゃなくて。回復したの?』
『もう平気、弁当も復活する』

 メッセを読んで、吹き出した。

「復活って」

 普段の碧がしなそうな言い回しだ。
 ちょっと可笑しくなった。

『無理しなくていいから、とりあえず自分が元気になれ』

 そう返して、スマホを置いた。
 
 碧が無理して弁当を届けに来た日。
 保健の先生を待っている間に、碧と連絡先を交換した。

(もっと早くに交換しとくんだった)

 メッセが送れれば、碧は無理して学校まで弁当を届けることもなかった。

 ピロン、とスマホが鳴った。

『絢音の喜ぶ顔、見たいから、復活する』

 キュン、と胸が締まった。

(え……? キュン? なんで?)

 自分の反応がよくわからない。

「まぁ……碧の弁当は、美味しいけど」

 そんな台詞で、何かを感じた心を誤魔化した。

 次の日の昼休み。
 僕は空き教室に向かう準備をしていた。

「あれ、絢音君。どこか行くの?」
「うん、ちょっとね」

 クラスの女子に声を掛けられて、僕は言葉を濁した。

「昨日とか、また教室で一緒にお昼食べられたのにぃ」

 女子が嘆いている。
 確かに、碧が休んでいたから空き教室に行かなかった。
 本当は、一人でもいいから行こうとしたのだが。
 女子たちに捕まったので、仕方なく教室でご飯を食べていた。
 
(今日は空き教室に行きたい。碧も学校に来るし)

 鞄を持つ手に力が入る。

「ねぇ、今日も一緒にご飯食べようよ」
「私も一緒がいい~」

 女子が増えてくる。
 あっという間に机を囲まれた。

「えっと、今日は……ね」

 何とも説明のしようがなくて、言葉に詰まる。

(あれ……この子たちって、こんなに鬱陶しかったっけ?)

 頭に浮かんできた言葉に、自分で驚いた。
 前だって、少しは困ることもあったけど、鬱陶しいまで思わなかった。
 今は、しつこさに多少の苛立ちまで覚えている。

「絢音」

 碧の声が聞こえた。
 女の子たちの人垣の後ろに、碧がいた。

「え……」

 人垣をかき分けて、碧が僕に手を伸ばした。

「絢音は、俺と昼飯、食べるから」

 僕の手首を掴んで、碧が引っ張る。
 勢いで人垣を越えた。

「ちょっと……碧!」

 碧は何も言わずにズンズン歩く。

「え……? 朝比奈くんと夜久くんて、そんなに仲良いの?」
「ていうか、下の名前で呼んでた」
「どういう関係?」

 女子の間で憶測が飛び交っている。
 それを後ろに聞きながら、僕は碧に引っ張られた。

「碧、ああいうのは」
「今日は、エビフライ」
「え! タルタルソース?」
「タルタルは市販だけど」
「全然アリ!」

 碧のエビフライで、さっきまでの憂いが吹っ飛んだ。
 
(空き教室に着いたら、エビフライ。女の子たちは、まぁいいや)

 何か聞かれたら、適当に流せばいい。
 今は、そんな風にしか考えなかった。