「キスしたら、俺の」――突然のキスで、勝手に恋人宣言されました

 それから光飛とは、今まで通りの関係を保てている。
 きっと光飛のほうがいっぱい我慢して、気を遣ってくれているんだ。
 それに甘えている僕は、申し訳ないけど。
 でもやっぱり、光飛とは友達でいたい。

「今日も昼はあっち?」

 光飛が旧校舎のほうを指さした。

「うん。碧がお弁当、作ってくれてるから」
「へぇ、そういうとこもあるんだ。意外」
「だよね。僕も最初、驚いた」

 クスクスと笑う。
 そんな僕を光飛が眺めた。

「絢音、最近かなり自然になったよな」
「そうかな」

 自分としては、あまり意識していないけど。

「一年の時は、そんな感じだったじゃん。可愛い系っていうか」
「かわ……」

 そういう評価は、あんまり嬉しくない。

「二年になって王子様キャラになったけど。無理してそうだったからな」
「光飛にも、そんな風に見えてたんだね」
「周りの期待に応えようとするのは、絢音の良いとこなんだろうけど。無理して自分を変えてまで、しなくていいんじゃないの?」
「うん……最近、そう思うようになったよ」

 どんな時も変わらない碧といると、僕も素の自分でいられる。
 それが、とても楽だと知ったから。

「それって、困るなぁ。僕とキャラ被りしちゃうよぉ」

 春宮悠莉が、突然話しかけてきた。
 
「被らないよ。僕は可愛い系じゃない」

 きっぱり言い切ったのに、春宮は不満顔だ。
 
「お前とは話してない。声掛けてくるなよ」

 光飛が春宮をあからさまに拒否した。

「日高、冷たい~。僕ともお話しよ。ね、朝比奈くん」
「別にいいけど」
「絢音!」

 光飛がフルフルと首を振った。

「いいよ~だ。日高とは話さないよ。僕は朝比奈くんとお話しするから」

 腕を引っ張られて、思わず立ち上がった。

「え? 何?」
「ベランダに行こう。早く早く」
「おい、絢音を連れて行くなよ」

 光飛が僕の腕を引いた。

「日高とは話してないよ。べーだ」

 ちろっと舌を出して、春宮が光飛の腕を払った。
 僕は引っ張られるまま、春宮にベランダに連れて行かれた。

「僕に話があるの?」
「うん、大事な話があるよ」

 春宮がニコニコしながらスマホを取り出した。

「大事な話?」
「こーれ」

 見せてくれた画面には、とんでもないものが映っていた。
 僕と、碧と、光飛。
 この前、旧校舎の裏で話していた時の動画だ。
 さっと血の気が引いた。

「なんで、春宮が、こんなの」
「ちょうど通りかかったんだよねぇ。大事な話してたみたいだったから、記録してあげたの。音声も聞こえる程度には撮れてるよ」

 全部じゃないけど、話が繋がる程度には声も録音されている。
 何より、碧が僕を抱き寄せる姿が映っている。

「朝比奈くんが男の子好きだったなんて、知らなかったなぁ」
「ちがっ……」
「違うの?」

 僕は、正面切って否定できなかった。
 
(だって、まだわからない)

 碧に好きって言われて、嬉しい。
 光飛の気持ちだって、嬉しかった。
 僕自身がどう想っているのか、まだわからない。

「これって、2組の夜久くんだよね。ピッタリ抱き合っているように見えるけど」

 僕は思わず画面を手で隠した。

「消して。その動画、消してよ」
「なんで?」
「無関係の春宮が持っていても、意味ないだろ。それとも、その動画で僕を脅したいの?」
「うん、そう」

 春宮が可愛らしい顔で笑った。
 僕は絶句した。

「脅すなんて言い方は、僕は嫌いだけどねぇ。お願い事、聞いてほしいなって思ってるんだ」
「お願い、ごと?」

 春宮が、僕に顔を寄せた。

「もっと詳しく話したいからさ。放課後、付き合ってよ」

 僕は、頷くしかなかった。

「それから、夜久くんや日高にこの動画について相談したら、学校の掲示板に張り付けて、SNSでバラ撒くから」
「何、言って」

 そんなことされたら、碧や光飛にまで迷惑が掛かる。
 絶対に相談できない。

「大事な友達がゲイバレするの、嫌でしょ?」

 僕は息を飲んだ。
 無言で、静かに頷いた。

「それじゃ、放課後、楽しみにしてるねぇ」

 春宮が手を振って先に教室に戻った。
 僕はしばらくベランダから動けなかった。