「キスしたら、俺の」――突然のキスで、勝手に恋人宣言されました

 昼休みになった。
 僕はガツガツ歩く箕輪の後ろを、ぼんやり付いていった。

「中庭とか学食とかには、いないんだよね。夜久くんだし、もっとどこかに籠ってそう」

 どんな推理だと思うけど、外れてない。

「もしかして、ずっと一人で探してた?」
「うん。でも見付からないの。同じ校内にいて、こんなに見付からないって、あり得る?」
「不思議だね」

 本当に不思議だ。
 どうして箕輪は、旧校舎を探さないんだろう。
 とはいえ、自分からそう指摘するわけにはいかない。

「まだ探していない場所は?」

 だから、遠回しに聞いてみた。

「裏庭は何回も見てるし、特別教室も一つずつ探してるし……」

 何というか、執念が凄い。
 箕輪が僕を振り返った。

「あと、思い付く場所、ある?」

 逆に問い掛けられて、僕は返事に詰まった。

「校庭は広いし……サッカーコートの向こう側とか、野球場の裏とか」
「外ってイメージしなくない? 校舎内にいそう」

 箕輪の推理は、微妙に合っている。

(良く見てるんだな、碧のこと)

 もしかしたら、僕よりよく知っているかもしれない。

「あとは、旧校舎なんだけど……」

 旧校舎という単語が出てきて、ドキリとした。

「部室利用しかされてないから、先生の許可がないと入れないんだよね」
「そうなの?」
「使用許可が下りると、鍵を借りられるの。それがないと、旧校舎の入口のドアが開かないの」
「あぁ、なるほど」

 言われてみれば、そうだ。
 碧が貸してくれたスペアキーで旧校舎の入口のドアを開けて、中に入っている。
 空き教室のドアも同じ鍵だ。

「夜久くん、部活なんかしてないし、旧校舎には入れないはずなんだよね」
「え?」

 思わず疑問符を漏らした口を、僕は抑えた。
 箕輪が不信感いっぱいの顔を僕に向けた。

「何か、知ってるの?」

 箕輪に迫られて、フルフルと首を横に振る。
 思いっきり睨まれた。

「知っているなら、教えて」
「知らない」
「うそ。今のは知ってる反応だった」

 箕輪が食い下がる。
 しつこいのは困る。

「例えば、知っていたとして、だよ。碧が話さないことを僕が話すのは良くないと思うし、碧に失礼だよ」
「友達なんだから、上手く誤魔化して」
「そう言われても、困るよ」
「協力するって言ったよね」
「言ったけど、さすがにそういうやり方は賛成できないよ」

 箕輪が頬をぷっくりと膨らませて、僕を睨んだ。
 怒っていますと言わんばかりだ。

「もういい。だったら、旧校舎に行く」

 箕輪が歩き出した。

「行っても入れないだろ」

 何とか止めようと、僕も付いて歩く。

「外から窓を一個一個確認するもん。見付けるまでやる」

 振り返った箕輪が僕の腕を掴んだ。

「夜久くん見付けるまで、帰さないから」
「本気?」
「本気だよ」

 手首を握られて、連行されたように歩く。

(読書同好会の部室は二階だから、下から見上げたんじゃ、わからないだろうけど)

 仮に碧が窓際に寄っていたら、見付かるかもしれない。
 僕の中に、じわじわと焦りが湧く。

「ね、ねぇ、今日のところは、もうやめない? お昼ご飯も食べていないだろ」
「食べなくていいもん。ダイエットになるし」
「僕はお腹空いてるけど」
「帰りに何か、奢ってあげるから!」
「放課後まで付き合わないといけないの?」

 帰りまで碧の誘いをキャンセルしたら、さすがに怪しまれる。
 
「付き合ってよ。見付かるまで、私に付き合って!」

 まるで駄々っ子のように、僕の腕を引いた。
 
「ちょっと」

 上体が前に倒れ込む。
 ふらついて、壁に手をついた。

「引っ張ったら、危ないよ」

 箕輪を見下ろす。
 驚いた顔をしている。

「朝比奈くん、これって……壁ドン?」
「は? え?」

 そう言われてよく見れば、そういう姿勢になっていなくもない。
 急激に焦る気持ちが湧き上がった。

「ち、違う! そういうつもりじゃない!」

 ぱっと離れて、距離をとる。
 箕輪が恥じらうような顔をした。

「う、うん。わかってる。私が悪いよね。それに私、夜久くん一筋だし」
「ごめん、本当に気にしないで」

 こういう勘違いは、時に身を滅ぼす。
 誤解は早急に解いておかないといけない。

「とにかく、気が済むまで付き合うから。今のは忘れて」
「本当! 良かったぁ」

 箕輪が途端に笑顔になった。
 その顔を見て、僕はほっと息を吐いた。

「それじゃぁ、旧校舎の窓、見ていこう……え?」
「ん?」

 箕輪が、さっきとは違った驚き方をしている。
 視線の先が、僕の後ろに向いた。
 僕は、箕輪の視線を追って振り返った。

「え……碧?」

 真後ろに、碧が立っていた。