初田ハートクリニックの法度

 医者になっても、花は摘んでよくて虫をちぎるのは駄目な理由はわからないまま。

 コウキを見ていると、子どもの頃の自分を見ているような気持ちになる。

『マグロショーはよくて猫殺しが駄目な理由はなに?』

 コウキの質問に返した答えは、初田がとりあえず自分を納得させるために導き出した解だ。

 大多数の正常な精神(・・・・・)の持ち主たちが決めたルールの上では許されないこと。

 正常な人間の価値観において、花と虫の命は同じ天秤にかけてはいけないのだ。

「どうしてわたしが医者になった理由を知りたいと思ったんだい?」

「精神科医じゃなくても、選択肢はたくさんあったでしょう? 先生すごく頭の回転速そうだから」

「帽子屋のナゾナゾと一緒で、答えのないものが好きだからさ。教科で言うなら数学より国語が好きだ。筆者の気持ちを述べよってやつがなかなか手強いよね」

 胃潰瘍なら薬を飲めば治る。

 骨折ならギプスで固定すればいい。

 精神は目に見えないし、必ずしもこの治療が正解という答えが無い。

 だからこそ興味深く、惹かれるのだ。

「先生ってやっぱり変な人」

「お褒めにあずかり光栄だよ」

 歯に衣着せないコウキの感想に笑って応じる。

 こうして初田初斗は、今日も答えのない答えを探して患者と対話していく。


 閑話1 花と虫の天秤 終