初田ハートクリニックの法度

「迷惑なんですよね。わたしは何もしていないのに、あなたみたいな人がいるから、わたしは素顔を晒して歩けない」

 マスクをかぶり直して、初田は玄関に立つ礼美とコウキに目を向ける。

「信じる信じないはあなた達の自由です。ただ、わたしを嘉神平也だと思うなら、わたしの診察を受けないほうがいいでしょう」

 猟奇殺人鬼の診察を受けたいなんて狂人はまずいない。

 礼美は胸の前で手を握りしめ、秀樹と初田を交互に見て口を開いた。

「信じます。初田先生。あなたに、これからもコウキを任せます」

「正気か礼美!! 嘘に決まって……」

「私は先生の言葉は信じられても、貴方のことはもう信用できないわ。コウキにしたことを酷いと思わず、逃げようとするなんて」

 息子だけでなく妻にまで見放され、秀樹は震えた。

 悲しみでなく怒りで。

「ふざけるな。オレでなくこんな変人を信じるだと!? オレがこの家の主だぞ!」

「なら、コウキと一緒に出ていきます。貴方がいたらコウキはもっと傷つく」

 礼美は家の中に戻っていく。

 おそらく荷造りのために。